他者を「よい人」と「悪い人」に二分して集団を分断する
対立屋が支持者に標的を攻撃するよう教え込むときに用いる言動は、「スプリッティング(分裂)」と呼ばれる心理作用をもたらします。その用語が示すとおり、こうした人たちは他者を「よい人」か「悪い人」、あるいは単に「勝者」か「敗者」として見ます。対立屋にとって中間は存在しないのです。彼らが感情的に仕掛けてくるスプリッティングによって支持者はしばしば自分では気がつかないうちに、特定された人々をすべてよいか、すべて悪いかで見るようになります(図表2)。
対立屋は、絶えず「よい人」や「悪い人」のことを話し続けることで、集団を分断します。そのために、噂を広めたり、脅迫のほのめかしをしたり、市民を罠にはめて相争わせたり、時には陣営の鞍替えをして他のすべての人々を狼狽させたりするのです。対立屋にとっては、個人を槍玉に挙げるだけですから気楽なものです。彼らは公的な場で攻撃を仕掛けたり、自分好みの問題で標的を非難したりしてコミュニティ全体をかき回し、その人のためになるとは限らない感情的な決定を全員に行わせます。標的となった人は、社会の中で自分の身を守る必要に迫られることに慣れていないため、しばしば恐怖に陥り身動きが取れなくなります。
「高ぶった感情」は伝染しやすい
情報や通信、論理的な問題解決法がこれほど急速に発展した世紀に、対立屋たちはどうしてあれほど支持者を獲得し、批判する人々を恫喝することに成功しているのでしょうか。答えは単純で、彼らが他の誰よりも「感情的なやりとり」や「感情的な関係」を効果的に活用できるからです。
なにより感情は伝染します。そして「高ぶった」感情――恐怖、パニック、嫉妬、恨み、怒り、逆上――はことさら伝染しやすいのです。穏やかな感情は日常生活の一部であり、私たちの意思決定や他者とのつきあい、有意義な人間関係の構築に役立ちますが、感情が高ぶると、鼓動が速くなり、精神的な視野は狭くなり、筋肉は戦いや逃亡、硬直モードになり、論理的な問題解決を司る脳の部分が働かなくなります。あっという間のことなので、私たちは自覚することさえできません。
脳の研究者によると、私たちはお互いの感情を「捉える」ことができます。不安になっているときは特にそうです。そのとき特に大きな役割を果たす部分が脳内に二つあります。一つは扁桃体です。扁桃体が他の人の顔にあらわれた恐怖の印を見つける速度は驚くほどで、0.033秒、人によってはわずか0.017秒という速さです。
もう一つは「ミラーニューロン」です。これは、私たちが目にした他の誰かの言動と同じものを、意識的な思考なしに私たちの脳内や体内で再現してみせるもので、子供たちはもっぱらそのようにして学び、大人たちがすぐに集団行動に加われるのもそのおかげだといわれています。