「感情表現が豊かな指導者」に従ってしまう脳の働き

また、脳の研究によれば、特定の状況で誰が権力を握っているのかはっきりとわからない場合は、もっとも感情表現が豊かな顔の持ち主が集団の注目を集めるといいます。感情表現が豊かな相手に恋してしまうのと同じように、私たちの脳は感情表現が豊かな指導者に従ってしまうのです。どちらの場合も、私たちの感情は私たちの意識のレーダーが捉えられないところで動いています。

対立屋は直感的にそのことを知っていて、常に人々を誘導します。人々は彼らの豊かな感情表現に引き込まれてしまうのですが、彼らは支持者のことなど気にしていません。後になってようやく人々は自分たちが操られて道を踏み外していたことに気がつきます。

この感情の伝染は、誰にでも起こりうるものであり、実際に起こっています。私たちは、誰もが感情的になるよう誘導されているのです。もっとも、その方向性はさまざまで、戦う人もいれば、逃げる人も、固まってしまう人も、従う人もいます。ここで学ぶべき教訓は、「私たちの側」に立っているように見える指導者が「敵に立ち向かう私たち」という言い方をしているときは、その感情的なメッセージをただ受け入れるのではなく、そのような感情の伝染の発生を監視し、みんなで協力してそれに対処する必要があるということです。

「恐怖やテロ」を道具に分断を仕向ける

たいていの場合、人は異なる政治的傾向を持つ人々とも仲良くできます。そこにいかさま王が入り込み、その違いを繰り返し強調して、わざと人々を分断するよう仕向けたとき、深刻な問題が起こるのです。では、彼らが人々を分断するうえでもっとも強力な道具の一つとしているものは何でしょうか。

有権者の分裂を推進するもっとも強い感情は恐怖です。多くの政治家は、権力は組織力や優れた政策に由来するものだと言うのでしょうが、ヒトラーが一歩一歩権力を掌握していったように、対立屋が重視するのは恐怖やテロです。ロシア生まれの作家マーシャ・ゲッセンは、近著でウラジーミル・プーチンの来歴や大統領としての仕事ぶりを分析しながら、次のように述べています。「イデオロギーが重要だったのはほんの最初期、将来全体主義的な統治者となる者たちが権力を掌握するまでのことで、その後はテロが始まった」。

2018年のアメリカで『FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実』(ボブ・ウッドワード著、日本経済新聞出版)というタイトルの本が登場したのも興味深いことです。