実は「ノーガード戦法」ではなかった

では、目指す第一の目的は何だったのか。それは、あくまで「医療崩壊を防ぐこと」とジェセック教授は言う。そのための方策は単純明確で、「死亡率の高い高齢者と(基礎疾患を持つ)リスクの高い人を守ること」。他国と同様、死亡者が70代以上の高齢者と基礎疾患を持つ人に大きく偏っていたことがその裏付けの一つとされたようだ(6月24日現在、死者5209人中70歳以上が88.9%、60歳以上で95.8%)。実際、この間のスウェーデンにおける病床の数については、常に3割程度の空きをキープし続け(ストックホルム在住・吉澤智哉氏、Youtubeより)、その後も医療崩壊のエピソードは漏れてこない。

では、こうした理論は現場でどう実践されていたのだろうか。まず、まったくの“ノーガード戦法”ではなかったことには留意すべきだろう。法律で50人以上の集会は禁止、飲食店での混雑は避ける。スウェーデンへの入国禁止(国籍を持つ人、居住許可を持つ人以外)、高齢者施設への訪問は禁止。飲食店でも立ち飲みは禁止で、テーブルは1メートル半程度の間隔を開ける、70歳以上は外出自粛、等々の様々な規制はあったという。

それでも「肉を切らせて骨を断つ」やり方だけに、当然のように不協和音は起こった。3月半ばに死者が激増、イギリスが方針を集団免疫の獲得からロックダウンに切り替えた頃には、学者2000人が連名で政府に抗議したし、死者が100人を超えた4月にも20人以上の医師が政府に抗議している(現地在住・久山葉子氏ブログより)。

感染者増で貿易相手国が「閉鎖措置」

しかし、現地に住む複数の日本人の方々のネット発信を見た限りでは、大多数の国民はほぼ納得している様子である。その根底には、政府に対する信頼度の高さがあるようだ。もともと国選選挙の投票率が80%超、若年層でも8割以上が投票所まで行くというお国柄だが、コロナに関しての情報開示の透明度も高く、特に国家主席疫学者のアンデシュ・テグネル(Anders Tegnell)氏は連日14時に行われる記者会見に出席し、記者たちの厳しい質問にもポーカーフェイスで堂々と応答。その様が国民的人気を得ているという。

スウェーデンのやり方を批判する人がその理由に挙げるのは、すでに述べた通り感染による死者の多さだ。そこは前出のジェセック教授やテグネル氏も認めている。テグネル氏は4月30日、「感染・発症する人が増えるのは計算していたが、死者がここまで増えるとは驚きだ」「高齢者の施設から疫病を遠ざけておくのは、ベストをつくしたとしても難しい」とコメントした(5月9日付豪THE WEEKLY SOURCE)。3月30日に老人ホームへの訪問を禁止したが、首都ストックホルムの400の老人施設のうち200以上が、少なくとも1例以上の感染者を出したという。

そのせいで、「輸出立国」スウェーデンはあちこちの貿易相手国から閉鎖措置を取られ、スウェーデン国立銀行はGDPで最大10%減少、失業率も10.4%まで上昇という予測数値を出している(6月5日付米ウォールストリート・ジャーナル)。