被害のあった武蔵小杉のタワマンは旧河道に面していた

同様に「宇奈根」も世田谷区と川崎市高津区の両岸にあり、東京都大田区には「下丸子」、対岸の川崎市に「上丸子」「中丸子」があるのも同様の経緯からです。町名として川崎側に「下沼部」があり、東京側では東急多摩川線に「沼部」駅、東京側に「上野毛」「野毛」、川崎側に「下野毛」という地名があるのもその名残です。

したがって以前は河川だった場所は、泥土が堆積し周囲の土地よりも低く水を含んで湿地になっていることが多く、不同沈下(建物が不揃いに沈下すること)が起きやすい軟弱地盤です。排水も悪く、地震・洪水による被害を受けやすいため、一般には宅地には不適当な「旧河道」が多くなっています。水害に見舞われたタワーマンションはその旧河道に接していました。

地名でわかる土地の歴史

「土地の履歴書」ともいえる「地名」には、しばしば地域の歴史が刻まれています。例えば「池」や「川」「河」「滝」「堤」「谷」「沼」「深」「沢」「江」「浦」「津」「浮」「湊」「沖」「潮」「洗」「渋」「清」「渡」など、漢字に「サンズイ」が入っており、水をイメージさせるものは低地で、かつては文字どおり川や沼・池・湿地帯だった可能性があります。例えば渋谷駅周辺は、舗装された道路の下に川が流れており、低地で地盤も弱いのです。

内陸部でも「崎」の地名がつくところには、縄文時代など海面が高かった時代に、海と陸地の境目だった地域で、地盤が強いところと弱いところが入り組んでいる可能性があります。東日本大震災の津波被害で一躍注目を浴びた宮城県仙台市の「浪分(なみわけ)神社」は、1611年の三陸地震による大津波が引いた場所という言い伝えが残っています。

杉並区荻窪の「オギ」は湿地に育つイネ科の植物で、古くは一帯に「荻」が自生していました。「クボ」は文字通り窪地です。地域を流れる善福寺川の氾濫によってこれまで何度となく水害に見舞われています。新宿区大久保、国分寺市恋ケ窪なども同様です。中野区沼袋は低湿地で沼地があったとされます。

目黒区には現在暗渠になっている蛇崩川(じゃくずれがわ)という河川がありますが、ここには大水で崖が崩れ、そこから大蛇が出てきたという伝説が残されています。大阪市梅田は「埋田」から転じたとされ、「梅」は「埋める」に通じるようです。

地名は「音」(読み方)で意味がわかる場合もあります。椿はツバケル(崩れる)で崩壊した土地を意味し、「桜」が「裂ける」を意味することがあります。

注意したいのは、近年になって地名が変更されたところです。戦後の高度経済成長期以降に開発された大規模宅地などでは、旧地名から「○○野」「○○が丘」「○○台」「○○ニュータウン」といった地名に変更されている場合があります。