5月に入って武漢市や吉林省で集団感染が起きている

中国の国会に当たる「全国人民代表大会(全人代)」が5月22日、北京の人民大会堂で開幕した。2カ月半遅れの開幕だ。新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期されていた。会期は通常の半分の1週間に短縮された。

この全人代で話題を呼んだのが、翌23日に出された国家衛生健康委員会の発表だ。中国本土で22日に確認された新型コロナウイルスの新規感染者が「1人もいない」つまり「新規感染者ゼロ」というものである。

しかし、調べてみると、別にまとめている不顕性(無症状)の感染者は新たに28人いる。さらにおかしいのは、中国では1月23日に最初に感染の起きた湖北省武漢市をロックダウン(都市封鎖)し、2カ月半後の4月8日にその封鎖を解いたが、5月に入って武漢市や吉林省で集団感染が起きている。

2020年5月22日、北京で開かれた全人代に出席する習近平国家主席(中央)と李克強首相(右)
写真=AFP/時事通信フォト
2020年5月22日、北京で開かれた全人代に出席する習近平国家主席(中央)と李克強首相(右)

このため、欧米は中国政府による感染情報の信頼性を疑問視する。アメリカのドナルド・トランプ大統領もツイッターに「世界規模での大量殺戮さつりくを行ったのは他でもない『中国の無能さ』だ」などと投稿し、中国批判を繰り返している。

「新規感染者ゼロ」は中国政府が防疫の成功を国内外に誇示し、全人代を盛り上げるための目玉の発表なのだ。習近平(シー・チンピン)政権は世界制覇をもくろんでいる。世界中に新型コロナウイルス禍を広げた責任などこれっぽっちも感じていない。

なぜか最高指導部は「マスクなしの素顔」で出席

全人代の光景は、さらに驚かされるものだった。全体会議では中国各地から集まった約3000人の代表全員がPCR検査を済ませてからマスクを着用して出席。一方、習近平国家主席ら最高指導部のメンバーはマスクなしの素顔だった。しかも彼らの座席は例年同様に密集しており、中国政府が国民に求めるソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の確保ができているとは思えない。

習近平氏ら中国共産党の上層部には感染しないという自信があるのだろうか。一党独裁国家らしい中国の異様さが伝わってくる。

出入りする報道関係者にもPCRと体温の検査が課せられた。対面による記者会見は中止され、代わりにテレビ会議やインターネット中継が行われた。現場の取材は、中国政府の認める報道機関に限定された。中国政府は感染の再発にピリピリしている。