去年6月に政権に就いた菅直人は7月の参院選で衆参ねじれを招いたが、9月の党代表選で再選された。代表任期満了の来年9月まで政権を担当する資格を得ているはずなのに、菅降ろしが燃え盛る。

就任以来の挙党態勢拒否や党内対立に加え、菅の自己中心的な政権運営や政治手法に不満や反感が広がった。さらに大震災後、対応の遅れと原発事故問題での不手際や無策が目立った。ねじれ国会や政局優先の与野党という事情も大きいが、復興対策をめぐる財源論や組織づくりなどの裏側で、菅の政権延命の計算が目立ち、それが震災復興と原発事故収束の阻害要因になったという指摘は多い。

菅グループのメンバーで、安全保障問題に強い長島昭久(衆議院議員)は、原発事故に関する日米協力の構築に深くかかわった。現場から見た菅のリーダーシップについて、感想を述べる。

「菅さん特有の役所不信を、役所側も感じるんでしょう。リーダーシップとフォロワーシップは表裏一体だが、役所側のフォロワーシップを喚起するリーダーシップがなかった。もう一つ、僭越ながらちょっとマイクロ・マネジメントになってしまった。原発問題で現場に任せればいいところまで自分で考え、全体を鳥瞰して指揮を執ることができなかった」

自民党の石破茂政調会長は首相としての資質に疑問を投げかけている。

「いろいろな首相を見てきたが、みんな総理として何をやりたいか、頭の整理をして首相になられている。菅さんは何をやりたくて首相になったのか、よくわからない。日本国憲法をきちんと読んだことがなく、安全保障や外交をまじめに考えたことが一度もないのは、予算委員会での答弁を聞けばわかる。文民統制の本質も理解していなかった」

自民党政権で厚生労働相として新型インフルエンザ問題で危機管理を担当した新党改革代表の舛添要一は、自身の経験を基に、手厳しく批判する。

「菅首相の問題点は、情報の隠匿と公務員を使えなかったこと、これに尽きる。情報が全部出ているという安心感があれば、不利な情報でも行動が起こせる。私は不利な情報であればあるほど流すことにした。だが、原発については情報を出していない。役人を使う場合、司令官が全部、責任を取るからと言えば、みんな生き生きとしてやる。周りが悪い、自分に責任がないと言うのは、トップとして一番嫌われる。菅首相はそれを徹底してやった。だから、実働部隊が動かない」

菅降ろし派の民主党の川内博史(衆議院議員)は「嘘つき」が問題と言う。

「今度の辞める、辞めないの問題も端的な例だが、昨年の参院選でも『消費税率10%。公約です。国民の信を問う』と言って惨敗したのに、責任を引き受けなかった。大震災でも原発事故の初動の段階で数々の細かな嘘をついている。一国のリーダーが嘘をつき始めると、周りの官僚組織全体がその嘘を正当化しなければならなくなり、おかしくなる」

だが、菅に理解と同情を示す国民新党代表の亀井静香は、リーダーシップについて弁護する。

「それは仕方ない面がある。歴代の首相で、大きなバックがなくて政権に就いたのはこの人くらいだ。能力はある。だけど、鳩山退陣で、たなぼたで首相となった。戦略を駆使して創造的な政策を実現するなんて、経験がない。それをすぐにやれといってもなかなかむずかしい」