ヨーロッパでは医療は公的な存在である

ではなぜ、世界一の病床数を持っている日本が病床を確保できずに、ホテルを確保しているのだろう。事実、先進諸外国ではホテルではなく病院の病床を使っていることが多いようだ。ドイツはコロナ感染専門病院を全国の地域に満遍なく配置し、コロナ対策の医療体制を数週間で急ピッチに整備した。そのおかげで現在はオーバーシュート/医療崩壊どころか病床にかなりの余裕があり、フランスやイタリアからも患者を受け入れているとのこと(事実、ドイツの死者数はヨーロッパ諸国の中でも圧倒的に少ない)。

日本ではあまり知られていないが、ドイツはもちろんヨーロッパの国々では医療といえば、一般的に警察や消防と同じような「公的」な存在である。ドイツの病院は公立・公的病院が8割で民間病院はわずか2割だ。

簡単に言えば、医療の多くの部分を民間に移譲していないのである。これは同時に、国や公的機関が医療機関に対する指揮命令系統を一定程度保持しているということでもあるだろう。

指揮命令系統を保持していたからこそ「余裕の医療体制」だった

さすがに日本の300倍近い死者数のイタリアやフランスなどはオーバーシュートしているようだが、ドイツは日本の20倍の死者数にもかかわらず余裕の医療体制。これが可能だったのは、ドイツなどの欧州諸国が病院を「公」とみなし指揮命令系統を保持していたことで、国中の医療資源をコロナ対策用として迅速に配備しなおせたことが大きな要因と言っていいだろう。

一方、日本の医療機関は約8割が民営である。民間病院に対して国はその診療内容についての指示命令系統を持たない。「感染症病床を○○床作りなさい」というようなことは言えないのである。

もちろん、公的機関にもまして民間経営の方が一般的にコスト意識やマネジメント力が高く、民間で医療機関を経営することには多大なメリットがある。しかしその一方で、医療という国家の安全保障を民間に分割・移譲してしまうことのデメリットは計り知れない。民間に開放するということは、国からの指揮命令系統の多くの部分が失われるということなのだから。

今回のコロナ感染パニックのようなこの危機的状況で、世界最大の病床を抱える日本がその1.8%しか病床を機能させられていない(しかもそのわずかな病床をパンクさせないように国全体の経済をストップさせている)という事実は、そのデメリットを顕著に露呈していると言わざるを得ないだろう。