タルピオットで身につく7つの力

次に、タルピオットで身につけられる、起業家としても役立つ7つの力について、一つひとつ見ていこう。

1.課題を見つけ、解決法を生み出すクリエイティブ思考

課題の見つけ方を教えるのは簡単なことではない。真の課題を見つけることこそが解決法の一部となっていることも多い。タルピオットでは、プログラムすべてを、自分の力で課題を見つけるトレーニングとしてとらえている。

「例えば、1年目のメンバーの多くは、『プログラムがきつすぎる』『やることが多すぎる』などの不平や不満を表明する。その場合は、『本当にプログラムそのものに問題があるのか。もしそうであれば、どこに課題があるのかを明確にしよう』と、さらに考えることを促し、解決策も考えさせる」とシュスマン氏は話す。

「クリエイティブ思考」と軍隊組織は、一見相容れない印象を受ける。「軍隊では上官の指示は絶対であり、部下は言われた通りに行動するよう訓練されるのではないか」と想像するだろう。しかしシュスマン氏は「クリエイティブに考えることと、軍隊のヒエラルキーは全く矛盾しない」と言い切る。

上官は部下に命令するが、それは「◯◯を解決せよ」などの課題、テーマであり、具体的にどのような方法を取ってそれを実現するかは、部下に任されることが多い。教官の役割は、メンバーが課題を正しく見極め、解決方法を見つけるために組織インフラをどう活用すべきかをガイドし、サポートすることだという。

2.組織の中でも外でもイノベーションを生む力

アイデアレベルで素晴らしいものを考え出したとしても、実行力を伴わなければイノベーションを生むことはできない。頭の中にあるアイデアを実現するためには、ヒト、モノ、カネなどのリソースが必要となるし、特にイスラエル国防軍のように大きな組織であれば、組織のダイナミズムも知る必要がある。

誰にどのような手順を踏んで提案すれば早く実現できるのか、リソースを調達するにはどうすればいいのか、そこを理解しなければ、組織の中でも外でもイノベーションを生むことはできない。

タルピオットのメンバーたちは、国防軍内のさまざまな部隊を訪れて現場の兵士たちと対話し、部隊の司令官、政府高官や企業のCEO、大学教授らともディスカッションを行う。組織のダイナミズムを学びながら、現場で課題を見つけ出す力をつけ、異なる視点で物事をとらえる訓練を行うという。

3.現場の声に耳を傾ける「顧客視点」

徴兵制が支えるイスラエル国防軍において、「現場の声」とはすなわち、自分たちの仲間であり、家族や親戚の声でもある。幼なじみや学校の同級生が、どこかの部隊で従軍しているだろうし、親や親戚、近所の大人も、どこかで予備役に就いているかもしれない。現場の課題を解決することは、こうした仲間や家族たちの命を守ることに直結する。自然に「顧客視点」に基づいた課題の発見や解決策作りに励むことになる。

プログラムの中でももちろん、現場の声に耳を傾けることは重視される。イスラエル国防軍内のさまざまな部隊を訪問し、現場で集めた情報の中から課題を探るという活動もその一端だ。そこで拾い上げた課題に対して解決策を見つけ、実行すれば、それは、現場の声から生まれたアイデアを現場に還元することになる。「顧客」の課題が解決され、メリットを享受することになる。