卒業生のネットワークはとても強い
6.粘り強く任務を遂行する精神力
「粘り強く任務を遂行する精神力」は、一つは前項の「失敗を恐れず困難に挑戦する前向きさ」から生まれている。失敗を恐れず困難に挑戦することができるからこそ、粘り強さが生まれるからだ。さらにこうした粘り強さは、「責任感」とも言い換えることができる。
タルピオットで培われる責任感は、「自分たちが上げる成果は、イスラエル国防軍の現場に還元され、自分たちの仲間や家族、国のためになっている」という信念にも源がある。
タルピオットのメンバーには、日本企業であれば考えられないほどの責任が与えられる。国防軍のさまざまな部署・部隊の機密情報に触れることができ、現場の兵士から司令官レベルまで、幅広い人と議論しながら、課題を見つけて解決策を作り上げる。「メンバーたちは確かに年が若いが、いくら若くても大人として扱えば、大人として行動するようになる」とシュスマン氏が話す通り、教官らも、困ったときにはサポートするが、基本的にすべて本人たちに任せ、自分たちに答えを探させる。
7.仲間意識、ネットワーク
多感な若い時代(概ね18歳から21歳)に、こうした密度の濃い経験をともにすることで、同期のタルピオットメンバーの間には強い連帯感が生まれる。プログラム終了後の6年以上の従軍中には、それぞれ国防軍内の異なる組織に配属されるが、卒業生同士のつながりは大きな力になる。同期の卒業生同士は連絡を取り合い、精神的なサポートはもちろん、困ったことがあったときにアイデアや情報を求め合うことが多いという。
卒業生全体のネットワークも強い。直接面識がなくても、同じタルピオット卒業生であれば電話やメール1本で助け合えるほどだという。仲間同士で起業することも多く、シュスマン氏もタルピオットの仲間とともにスタートアップを起業している。
「育てたい人材」を明確にイメージしている
タルピオットのプログラムの中で行われている教育は、どれも目新しいものはない。お題目としては、日本の教育制度や企業の研修・育成プログラムなどでも掲げられてきたものばかりだ。しかし、これほど徹底して身につけさせてこられたかについては、疑問が残る。
タルピオットのおもしろさは、厳選された少人数を、大学や産業界が協力しながら軍隊の中でトレーニングするところにある。軍隊の教育であるにも関わらず、自分で考えることを徹底的に求め、クリエイティブなアイデアを生み出す、多様な人材を輩出している。
イスラエルは徴兵制があるため、広く国民全体からエリートを選び抜き、教育を施すことができるという特殊要因はある。しかし、国が、「どんな力を身につけた人材を育てたいか」というビジョンを描き、試行錯誤をしながらもこうしたプログラムで実現しようとしている姿は、日本にも参考になるのではないだろうか。