すべてはこの一言から始まった。

 「これすごく内容もあって良い本なんですよ。よければ君のところで復刊してもらえないかなあ」

声の主はファーストリテイリング会長兼CEOの柳井正氏である。柳井氏からこの本の復刊を頼まれたのは実は2度目。最初は2003年の8月。そしてこの日は、同年12月4日のことだった。

その本とは2004年5月末に弊社から復刊された『プロフェッショナルマネジャー』(ハロルド・ジェニーン、アルヴィン・モスコー共著・田中融二訳)である。同書は1985年に早川書房から発刊されたもののあまり注目されず、ごく一部の人に読まれただけで絶版になっていた。

実は2007年8月の取材内容が経営者の「座右の書」についてだったので、私はこの本(国会図書館と東京中央図書館で半分ずつコピーしたもの)をすでに読んでいた。確かに面白い経営書だと思っていたが、私の所属は雑誌「プレジデント」の編集部であり、単行本は出版部で作っている。だからこの時点ではうまく出版部の人に繋いで、復刊されればいいなあ、とぐらいに思っていた。

ところが、である。

 「桂木な、この前、柳井さんから頼まれた本あっただろ。あれ編集部で出すことにしたから、おまえやれ」

声の主は小誌編集長(当時)のFである。

F編集長は最近ではテレビ番組のコメンテーターとしても活躍し、局内では「笑顔が素敵」と女子アナからの評判も高いナイスミドルである。しかし編集部でのF編集長は時には般若の形相で部下を叱責する鬼上司なのだ。F編集長によれば編集本部の機構改革をして、プレジデント編集部からも書籍を出すようにしたとのことである。