カレンバウアー党首のカリスマ性のなさが問題

日本と同様に、ドイツもまた本来ならば与党の党首が首相に就く。しかしながらメルケル首相は、自らの求心力の低下を受けて党首を辞任し、そのポストを事実上の後継者に禅譲することで、権力のスムーズな移行を図ろうとしたわけだ。しかしそうしたメルケル首相の期待を、カレンバウアー党首は裏切ってしまったことになる。

カレンバウアー党首にとって致命的だったのが、19年5月の欧州議会選後の発言だ。欧州議会選で与党CDUは連立を組む最大野党で中道左派の社会民主党(SPD)とともに議席を大きく減らした。その際にカレンバウアー党首は、選挙期間中にオンラインメディアに対する規制を設ける必要性について言及した。

一部オンラインメディアのインフルエンサーによる扇動的な政治活動に対する警鐘の意味を込めたカレンバウアー党首の発言は、言論の自由を阻害するものとして多くの有権者がこれに反発する事態を招いた。カレンバウアー党首では次期21年の総選挙は戦えないという機運が、CDU内に高まることになった。

結局のところ、カレンバウアー党首はドイツを率いるだけのカリスマ性を有していない。メルケル首相をはじめとするCDU指導部がそう判断したことが今回の辞任劇につながった。カレンバウアー党首はしばらくその職にとどまる見込みであるが、ポストメルケルのレースは振り出しへ戻ったことになる。

新興勢力の台頭が与党の危機感に

各種世論調査によると、首位を走る与党CDUの支持率は30%を下回る程度にとどまっている。20%強の支持率で第2位の座にあるのは環境政党である緑の党であり、さらに極右勢力であるドイツのための選択肢(AfD)と最大野党のSPDの支持率が12~15%程度の支持率で拮抗きっこうし、第三勢力を争う構図となっている。

緑の党とAfDは、有権者が抱えるCDUとSPDに対する不満の受け皿となっている。政権の安定を重んじるドイツでは、少数与党政権を回避するために連立工作が行われるのが常である。このままCDUやSPDが党勢を回復できなければ、緑の党かAfDを政権に参加させる必要が出てくることになる。

CDUからすれば、右派と左派の違いはありながらも、長年タッグを組んできたSPDはまだ付き合いやすい。しかし環境対策を重視する緑の党は、経済成長を優先するCDUと利益相反の関係に陥る可能性が高い。とはいえ民族主義が強いAfDだと、EU(欧州連合)内での協調関係にひびが入ってしまう恐れがある。

ドイツ政治の安定のためにも、CDUの党勢の立て直しは急務である。そのためには、カリスマ性に富んだリーダーをいち早く擁する必要があった。しかしながら、満を持して登場したカレンバウアー党首が退場してしまった。メルケル首相以下、CDU指導部の焦燥感は非常に高まっていると言えよう。