住宅地に出店してから駅前一等地へ
近年、首都圏の外食市場では「大阪発」「関西発」の商材や業態が受ける傾向があり、その流れにうまくのったといえるかもしれない。10代後半~20代前半の女性を中心に、安くて敷居の低い大阪の食文化にはまる人は少なくない。近年はもともと関東にはなかった「牛カツ」も大ヒットしている。
ただ、こうした業態や商品の魅力だけでは、それこそ一過性のブームで終わってしまった可能性もあっただろう。串カツ専門店が、なかでも串カツ田中がここまで店数を増やすことができた背景には、巧みな店づくりや立地・出店戦略がある。
大阪の串カツ店は、前述のとおりもともと労働者相手の店だったので、下町の庶民的な飲み屋街が主要立地であった。一方で串カツ田中は出店当初、あえて一等立地ではなく、近くに住宅街をひかえた生活道路沿いの二等立地に出店した。そのほうが出店コストや家賃などの固定費も安く、地元の常連客をつかめば集客のための宣伝費も必要なかったからだ。そうして認知度をある程度上げてから、駅前の一等立地に出店したのである。
清潔感にこだわり、家族連れを意識
店づくりはよくいえばシンプル、悪くいうとチープだが、そのぶんクレンリネスには気をつかっている。メーカーが重視する4S(整理、整頓、清潔、清掃)をマネジメントに導入し、現場レベルではレンジフードや冷蔵庫のフィルターといった清掃箇所とそのポイントをチェックシートによって明確化している。
店内は白を基調とし、照明も明るい。「場末の飲み屋」ではなく、女性や家族連れでも入りやすい食堂のような明るい雰囲気だ。これによって、一般的な大衆酒場がメインターゲットとする年配男性にとどまらず、幅広い客層を集客することに成功した。
創業当初から子供客にはソフトクリームをセルフで提供するサービスを実施するなどして、家族連れに対するホスピタリティを重視してきた。現在では「手作りたこやきセット」「田中のおにぎり」といった小さな子供を意識したメニューが、さらに増えている。2018年6月に全面禁煙に踏みきって話題になったことも記憶に新しい。この点から見ると、串カツ田中は「居酒屋」だけでなく、「ファミレス」に近い利用動機を吸収しており、実際に居酒屋の営業がむずかしいとされる郊外ロードサイドにも出店している。