ゴーン被告の前に立ちはだかる巨大な壁

ゴーン被告の前に立ちはだかる巨大な壁が「アメリカ」だ。保釈金から解説しよう。保釈金は被告の全財産から考えて逃亡を躊躇せざるをえない金額を決定する。ゴーン被告の保釈金は15億円だが、19年間も日産に勤め、年収19億円とも報じられた人物に対してあまりにも少額と言えるだろう。

辻褄が合うロジックは裁判所が、ゴーン被告の日本国内資産だけをカウントしたということだ。日本の司法機関に本人名義以外の海外資産を調査する能力はない。つまりゴーン被告は国外に資産の大部分を逃がしているということになる。

自己資本還流にSBL/Cという証券を使うほど、ゴーン被告は黒い国際金融に精通している。断言してもいいが、そうした人物は、どこの国に逃げても通じる通貨「ドル」で資産を隠すのが暗黒街の常識だ。

基軸通貨「ドル」が健全であることが、アメリカが世界の覇権を維持できる大きな要素だ。したがってアメリカは、悪事にドルを利用することを許さない。私はアメリカから600億円を銀行ごと没収された経験があるが、ゴーン被告が全財産を没収されるリスクは、考えているよりはるかに高い。

最後のポイントは逃亡先の国状だ。1997年、国際手配中に潜伏していた日本赤軍メンバー5人がレバノン当局に検挙。服役後4人が日本に強制送還されている。唯一政治亡命を認められたのが反イスラエルの政治犯と認められた岡本公三被告だ。背景にはレバノン-イスラエルの敵対関係がある。

イスラエルとアラブ社会の亀裂は、深い。パスポートにイスラエルの入国スタンプがあると、他のイスラム圏の国に入国できないことが多い。イスラエルに入国するときには別紙に入国印を押してもらい、再びイスラム圏の国に入国するときにはそれを一回剥がして審査を受けるほどだ。

レバノンはイスラエルへの渡航を禁止しているが、2008年にゴーン被告はレバノン国籍を保有したまま、イスラエルに入国。政府要人と会談した。ゴーン被告とイスラエルの関係の濃淡次第では、レバノン当局が別の罪で拘束する可能性は十分にある。

株式によって資金調達を行う一流企業が手配犯に経営を任せることもありえない。一方で「多面楚歌」状態にあるゴーン被告は、自身の安全保障を暴力に頼るほかない。それらを同時に満たすことができる就職先こそ「テロリスト専門の黒い銀行家」だ。

武器はドルでしか売買されないということで、テロリストはドルを喉から手が出るほど求めている。そのドルをいつでも供給してくれるスポンサーの安全を、非合法的な暴力で保障してくれることだろう。

(写真=時事通信フォト)
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