物価上昇は「コストプッシュ型」か「ディマンドプル型」か

消費者物価の上昇の局面で重要なのが、物価上昇が「ディマンドプル」型か、「コストプッシュ」型なのかということです。

ディマンドプル型の物価上昇は、需要(ディマンド)が増えることで物価が上昇する、いわば、「健全な」物価上昇です。この場合には、企業業績も上がりやすく、働く人の給与の上昇も望めます。

しかし、原油価格上昇のような、コストプッシュ型の物価上昇の場合には、値上がり分のお金は、ほとんどが海外に流出するため、単に物価だけが上昇するということになります。

そうなれば、のちに説明するように給与が上がらない中でモノの値段が上がるわけですから、消費が下がり、景気全体が下がり気味になるということです。

一方、米国でも、原油価格の上昇は、ガソリン価格の上昇などで物価には悪影響となります。ところが、昨年、米国は原油の純輸出国となりましたから(*)、貿易収支の改善を通じて、米国経済には好影響となります。原油のほぼ全量を輸入している日本とは根本的に構造が違います。

*2019年9月の米国の原油および石油製品輸出量が輸入量を日量8万9000バレル上回り、統計を開始した1949年以来70年ぶりに月間ベースで純輸出国となった

所得が上がらない中での物価上昇はきつい

図表2はこのところの日本における所得や雇用の状況を表しています。一人当たりの所得を表す「現金給与総額」は2014年度から上昇しています。しかし、そのレベルは年1%以下と低く、2019年に入ってからは、前年比マイナスの月も少なくありません。図表で現金給与総額の右隣の「所定外労働時間」が働き方改革の影響もあって減っていることが大きいと考えられます。

日本における所得や雇用の状況

同じ図表の「完全失業率」は極めて低く、「有効求人倍率」もピークは過ぎていると考えられるものの、いまだに高い水準の中で、給与が伸び悩んでいるという状況なのです。