精神力と人手には頼らない効率化
短時間でメンテナンスを終わらせるには作業者をトレーニングしておかなければならない。また、トヨタ生産方式自体を学習させておく必要もある。また、チーム編成も重要だ。さらに言えば、ユニホーム、作業ツールなどの標準化もいる。短時間メンテナンスは優れた作業スキルと固いチームワークのたまものと言える。
作業時間だけを無理やり短くすることは他の販売店でもできるかもしれない。しかし、MGFトヨタはどういった車種であれ、短い時間内に終わらせるシステムを整えた。そこが他社の販売店との違いだ。精神力と大勢の人手で作業時間を短縮したのではなく、トヨタ生産方式にのっとった効率化だ。
「他の自動車メーカーでここまでやっているところはありません。サービスにおいては他社の追随を許さないと思います。それもすべてはお客様のためです。お客様の身になったサービスをしています」
ダヤルは軍人の出身なのだけれど、居丈高ではない。顧客志向を訴え続ける。トヨタ生産方式についても、重要なのは考え方だと明言する。
「点検の設備ですとかツールは、言ってしまえばどこかの会社から購入して、コピーすることは可能です。しかし、トヨタ生産方式の考え方をしっかりと身につけることはすぐにはできません」
あえて「2度の洗車」を手で行う
現場で他の国(日本、アメリカ、中国、シンガポール)の販売店とあきらかに異なっていたのが洗車の工程だった。
MGFトヨタでは入庫してきた車を屋外で一度、洗車する。その後、構内に車を入れ、点検、修理を行った後、出庫する前にふたたび洗車する。しかも、どちらも数人が一斉に車に群がって手で洗う。
「これはちょっと、いかがなものか? 人手をかけすぎているのではないか?」
トヨタ生産方式はムダを排除するシステムだ。ムダを排除し、人手を少なくして生産性を上げる。
2度の洗車と洗車機を使わないことはトヨタ生産方式とは相いれないと思ったので、その点をダヤルに質問した。
すると、ダヤルははっきりと答えた。
「最初の洗車はアンダーボディ、車の下側だけを洗います。作業場に砂ぼこり、泥などを持ち込ませないためです。インドの道路は砂ぼこりや泥でいっぱいです。一度、走るとそれがボディについてしまう。
また、洗車機を導入すると、ブラシについた砂が車体を傷めてしまいます。さらに機械に砂が詰まって故障します。機械を使うと生産性が低下するので、お客様のために作業者が手で洗うのです」