勇武派の行動にはしっかりとした根拠がある

平和に年越しを迎える予感に包まれ、使用しなかった防毒マスクをスーツケースに詰め込んでいた帰国前夜、九龍半島旺角エリアで突如抗議者と警察の衝突が起き、急いで現場に駆け付けた。

黒ずくめの抗議者は数えるほどだったが、警察は催涙弾を撃ちまくっていた。隣にいた香港人プレスも「残業代稼ぎとしか思えないな」とあきれていた。6月以降に警官1万1000人が受け取った残業代は133億円、一人当たり毎月20万円になる。

交差点で抗議者がバリケードを築き始める中、タクシーが横切ろうとした。その前に黒いゴミ袋を置き、道をふさいだ抗議者に対し、怒った乗客が車から降り「子供が中にいるんだ。通してくれ」と語気を強めた。抗議者は即座にゴミ袋をどかし2人は和解し肩を組んだ。抗議者たちには、彼らなりの倫理観がある。年寄りと子供には迷惑をかけない。

撮影=筆者
市民と抗議者、和解の瞬間

インタビューに応じた勇武派男性は「理由なき破壊は1つもない。自発的暴力ではなく、必要だったから行った暴力です。金や物も取りません。親中派の路面店舗に火を放つ時も、建物の上層階の住民の様子を見ながら慎重に行う」と、単なる暴徒ではないことを繰り返し主張した。半年間テレビ中継で勇武派の行為を眺めてきた市民の多くが、彼らを全面的に批判しないのは、攻撃対象と根拠を理解してのことだろう。

「抗議者の犯罪行為もちゃんと撮れ」という警官のメッセージ

数の上で余りに非対称な夜の攻防だったが、深夜1時過ぎ、これまでに感じたことのない恐怖に襲われた。警官隊が見詰める大通りの100メートル先で抗議者数人がバリケードに火を放った。プレスと書かれた黄色いベストと防毒マスクを着用した私は、両者の間で警官隊寄りに1人で立ち、成り行きを見守った。火は勢いを増してきた。

撮影=筆者
バリケードから勢いを増す炎

警官50人近くが突如私に向かって指や警棒をさし、広東語でわめき立てた。位置取りがまずかったかとキョロキョロしたが何しろ全く言葉が分からない。怒鳴り声へと声量は増した。警察のプレスへの暴行が相次いでいることもあり、全身に鳥肌が立った。ふと、燃え盛るバリケードにカメラを向けた。すると、警官から、今度は拍手が湧いた。振り返ると数人が親指を立てている。

「警察の暴力だけではなく、抗議者の犯罪行為もちゃんと撮れ!」という意味だったと気が付き、胸をなで下ろした。