「民主派と勇武派の分断」は幻想だった

警戒心には理由があった。

「警察は12月に入ってから懐柔策を取っている。公式のFacebookページを見ても、抗議者をなだめるような投稿が増えている。トップが変わり方針を変えたのだろう。しかし、水面下では仲間の逮捕が相次いでいます」

香港理工大学の籠城では逮捕者以外も多数の若者がIDを登録させられた。監視カメラ映像、警官自身が現場で映す映像、交通機関やコンビニ、カフェなどで使えるオクトパスカードの記録など、さまざまな情報が警察に集約された可能性は高い。

わざわざ衝突現場で大立ち回りして逮捕することは、警官にとっても危険を伴う。「ある日突然帰宅した家の前で逮捕されるケースが増えている」と苦しい表情を浮かべた。一方、勇武派内に警察のスパイが紛れ込むケースもみられ、外部に情報を漏らしているのは誰なのか、互いに疑心暗鬼になっているようだ。「警戒してすみません」と彼は何度も頭を下げた。

撮影=筆者
抗議者が籠城する以前の平和な理工大学内

半年間で自然発生的に生まれた標語は幾つもあるが、その一つに「各自が努力する。仲間割れはしない」という言葉がある。日本人には現在の香港デモをかつての学生運動になぞらえて見てしまう傾向がある。だから、「仲間割れしないはずがない」「平和主義的な民主派市民と勇武派との間で分断が起きている」と考えがちだ。しかし区議会選挙の結果、それに続く80万人デモは、分断が事実ではないことを内外に示すこととなった。

「中国の支配を排除し自由を維持したい。香港警察の過剰な暴力は許せない」。シンプルな感情を土台にした闘いなのだ。そこには細かなイデオロギーも歴史観も存在しない。理論が細分化し対立する素地がないのだ。

「日本の報道が最も中国寄りだ」と感じる抗議者

抗議者たちは、自分たちの活動が世界でどう受け止められているか、について敏感だった。

今回の取材で数人に告げられたことがある。

「欧米、韓国などと比べると、日本の報道や、それを受けた日本国民のネット上のコメントが最も青い(中国寄り)と、抗議者の間で話題になっている」

「欧米メディアは、民主化を暴力で押さえ付ける政府、警察を絶対悪とし、軸がブレない。日本では抗議者と警察の暴力を併記した上で、市民は抗議者の暴力に批判的だ、と結論付ける報道が目立つ。中国メディアに近い報じ方です」

あまり知られていないが、香港人が日本に渡航する割合は人口の4分の1に上り、その多くは年に3回、4回と通っている。世界一親日の国(地域)が香港なのだ。

2019年10月の台風19号の被害に際し、抗議者たちは即座に街頭募金を行い100万香港ドル(約1400万円)を日本赤十字社を通じて寄付している。10月1日、4日と香港警察が実弾を発砲し、抗議者の怒りが頂点に達したさなかの行動だった。「われわれは日本に片思いをしているようです」と、20代前半で抗議者の女性は寂しそうだった。

撮影=筆者
現場から中継する海外メディア

10月くらいから抗議者や民主派市民に浸透し始めているスマホアプリがある。飲食店、雑貨店などが、民主派が黄、親中派が青と色分けされ、地図上で一目で分かるようになっている。青い店には金を落とさず、黄色い店を皆で応援する、との合意のもとに作られたアプリだ。

私が滞在したホテル近くに静かで居心地の良いスターバックス(親中派)があった。抗議者数人が代わる代わる来てくださり話をうかがったが、誰一人飲み物を注文しなかった。「親中派の飲食店に複数人が予約の電話を掛け、誰も行かない、というやり方もある」と聞かされた時は、さすがに閉口したが、時間をかけて親中派を追い込むさまざまな方法を日々編み出していることは分かった。