読書家として知られる出口治明さん(立命館アジア太平洋大学<APU>学長)の近著は『座右の書「貞観政要」』(角川新書)だ。『貞観政要』は、帝王学の教科書として読み継がれてきた中国の古典。出口さんは「30歳で初めて部下を持ったとき」にこの古典を手に取ったという。その理由とは——。
「日本人は真面目で正直」と今でも言えるか
米大手PR会社エデルマンが、28カ国、3万3000人を対象にオンライン調査を実施した結果、日本と欧米の「経営者に求められる資質」の違いが明らかになりました。
欧州では「正直である」がトップで53%。北米も同じで59%(ともに複数回答)でした。
一方、日本では「決断力がある」「有能である」などが上位になり、「正直である」は5位で26%にとどまっています。
僕は以前から、リーダーの資質としてもっとも大切なのは正直であることだと思っていたので、この調査結果は意外でした。
「日本企業は真面目で、正直で、誠実で、親切」が世間の通り相場だったのは、もはや過去のことなのかもしれません。粉飾決算や偽装事件といった不祥事が続く背景には、「会社のためなら、多少の不正もやむをえない」という歪んだ考え方がある気がします。
2019年9月、関西電力の金品受領事件が発覚しました(役員ら20人が福井県高浜町の地元有力者から多額の金品を受け取っていた事件)。
菓子の下に金貨を見つけたら、「おかしい……」と不審に思うのが市民感覚です。関電の幹部は、組織の論理を重視するあまり、少しずつ社会常識と乖離し、歪んだ感覚に染まってしまったのかもしれません。
関電は、3回にわたり記者会見を行いましたが、責任逃れの姿勢がにじみ出ていて、その内容はかなりお粗末なものでした。記者会見はまるで、「裸の王様」を見ているようでした。関電の社内には、問題を正しく指摘できる人物が誰もいなかったのではないでしょうか。