命に関わる重要なサインとは

腰痛で、とりわけ注意すべきなのが前述②のパターン。生命に関わる重篤なケースもあるので、「レッドフラッグ(危険信号)」と呼んで、早急にスクリーニングする。

可及的速やかに鑑別すべき代表例が「大動脈解離」。大動脈の血管壁が剥がれてしまう病気で、急な激しい腰痛や背部痛を伴うことが多く、放置すれば、死に至る。

体の動きに関係なく強い痛みが出現した場合は注意が必要だ。日中の活動時だけでなく、安静時や夜間にも腰が痛んだり、だんだん痛みが増したりするのも、危険な腰痛といえる。例えば、膵臓がんや卵巣がんなどの腹部のがん、腰椎へのがん転移などでも、そうした痛みが起こることがある。

このほか、一般の人でもわかるサインとしては、発熱があるか、体重が減っていないか、足など広範囲にしびれがあるかという点だ。これらの症状が伴う腰痛だと思った場合は、すぐに医療機関で診断をしてもらったほうがいいという。

なぜ原因がわからない腰痛があるか

そして、やっかいなのは、腰痛と器質的異常が、必ずしも結びつかないことだ。

「腰部の脊柱管狭窄や椎間板ヘルニアがあっても、全く痛みを感じない人もいます。反対に、画像診断で何ら異常がなくても、腰痛を訴える患者さんもいます。そうしたケースでは、原因を突き止められず、非特異的腰痛という診断になってしまうわけです」(二階堂さん)

そこで、福島県立医科大学附属病院は、「痛み」が起こるメカニズムの中で、大きな役割を担う脳に注目した。

例えば、体を刃物で切られると、感覚器からの電気信号が神経を通じて脳に送られ、「皮膚や筋肉が傷ついた」という事態を脳が把握し、初めて痛みを感じる(侵害受容性疼痛)。しかし、体が傷つかなくても、途中の神経の異常によって痛みを感じたり(神経障害性疼痛)、脳の異常によって痛みを感じたり(非器質性疼痛)することもある。

強い精神的なストレスでも、痛みが生まれる

前述③の非器質性腰痛とは、まさに脳の異常に起因するもので、非特異的腰痛の約3分の1を占める。その大半が、精神的なストレスやうつ、不安といった心理社会的要因によるものだと二階堂さんは説明する。

「例えば、強い精神的なストレスを長期間受けていると、腰に異常がなくても、腰痛を訴えるケースが多いことが知られています。痛みをブロックする下行性疼痛抑制系という体の防御システムがうまく働かなくなることによって、痛みが増強したり、長引いたりするからだと考えられています」