くら寿司の「将来の経営人材」に押し寄せる嫉妬心や敵愾心
一方、くら寿司の「年収1000万円新卒募集」の目的は「将来の経営人材」の確保にある。「エグゼクティブ新卒採用」と銘打ち、200人超の通常の新卒採用とは別枠で幹部候補生として10人程度採用する。就業経験のない26歳以下、簿記3級以上、TOEIC800点以上という条件に示されるように同社の海外展開も担う経営人材としての期待もある。
報酬1000万円の内訳は「入社3カ月までは月額42万円を支給、4カ月以降は月額83万5000円を支給。年収は実績をもとに1年ごとに見直す」としている。
同社の通常の大卒・大学院卒総合職の初任給である23万円をはるかに上回るだけではない。同社の平均年収約450万円(平均年齢30.4歳)の2倍以上の報酬を職業経験のない“真っ白”な新人に支給することになる。
2年目以降の報酬は実績をもとに見直すとあるように、おそらく同社のこれまでの賃金体系とは別の運用をするとみられる。注目されるのは誰がどのように実績を評価するのかということだ。
既存の社員が評価するとすれば手厳しい結果になる可能性があり、先のデジタル技術者と同じリスクを抱えることになるかもしれない。
周囲から妬まれて新卒組の半分が3年以内に辞めた
高額年収のリスクに加えて、最大の課題となるのは、目的である「経営人材」の育成だ。入社後2年間は店舗研修や商品部・購買部など本社の各部門で職場内訓練(OJT)を受けた後、1年間海外研修に参加。研修後は部長職相当の業務を担うというシナリオを描いている。
つまり最短で26歳で部長職に就くことになるが、サラリーマンであれば多かれ少なかれ社内の昇進に関心を持ち、嫉妬心や敵愾心を抱くことも多い。昇進がかかっていれば人の足を引っ張ることを躊躇しないのが世の習いだ。
実際、過去にこんな事例がある。
三洋電機が2002年に新卒を含む「次世代経営職候補」を特別枠で採用した。当初は、30代前半になった段階で関係会社の社長になるという触れ込みだった。
しかし本社から事業部の現場に出された途端、幹部が経営職として受け入れないばかりか、現場の妬みを買い、そのストレスに耐えられずに新卒組の半分が3年以内に辞めたと言われている。その三洋電機も経営不振が続き、2011年にパナソニックの完全子会社になり、事実上消滅している。