新卒1000万円プレーヤーを誰が育成・指導するのか

ところが、こうした手法での中途採用も限界にきているようだ。前出の社長は「企業の需要に対して中途人材が枯渇しているのが現状。そのため最近はAIやデータサイエンス関係では大学院卒でもいいから取りたいというニーズが増えている」と指摘する。

じつはこうした傾向が今回の「新卒高額報酬」につながっている。

つまり、大手企業としてはできれば高額報酬での中途採用を隠密裏に進め、社員間の軋轢あつれきをなくしたかったが、背に腹は代えられず、高年収を提示して新卒採用に踏み切ったというわけである。

ここで話は最初の疑問に戻る。「新人が高額年収に見合う活躍ができるのだろうか」。

NECは2019年10月から年齢に関係なく能力や実績を考慮して決める等級制度を新設するという。これは本人が従事する職務・役割に着目し、同一の役割であれば、年齢に関係なく給与も同じにする欧米流の職務等級制度のことだろう。

本人の潜在能力や年功を基準に決定する日本的な能力等級とは異なる。すでにソニー、日立製作所、パナソニックも似たような制度を導入している。

実際の制度設計においては、等級ごとの職務レベルを定義し、その職務レベルに近い市場価値に合わせて給与を決めていくことになる。だが、実績のある中途採用者は等級の格付けはできるが、22~25歳の職業実績のない新人の格付けが可能なのだろうか。ましてや1000万円となると、かなり上位の等級になるはずだ。

仮に優秀な学会論文発表の実績から「等級役割をはたす可能性がある」と見なすのはいいが、大学・大学院卒総合職で入社してくる普通コースの新人との職務レベルの違いを合理的に説明できるのかという疑問もある。

自分より給料の低い上司との軋轢が生まれるのは必至

また、いったい誰が指導・育成をするのか。

育成は技能だけではない。業務の進め方や社員間の仕事の調整、何より職場の風土になじむための人間関係力の向上も含まれる。通常、新人を育成するのは先輩・上司だ。先輩や上司たるゆえんは報酬の序列に基づいている。

本来なら本人(年収1000万円新卒)より上の等級の部長クラスがその任に当たるべきだろうが、そこまでやるだろうか。もし、新人より報酬の低い課長、係長クラスに育成を丸投げしたら、その関係に軋轢が生まれ、育てるどころか、才能を潰してしまうことになりかねない。

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何より問題なのは、職務等級の賃金制度を導入している日本企業でもいまだに適材適所の人事ができていないことである。本来なら等級役割を果たしていない社員は降格させるのが原則だが、多分に年功的要素を残したまま運用している企業も少なくない。

そうした土壌で新卒に高い年収=高い等級を与えれば、下手をすればせっかく採用した優秀な人材が離職してしまうなど極めてリスクが高いだろう。