新人デジタル技術者に1000万円を払わざるをえない理由

はたして採用された社員は1000万円の年収に見合う成果を出せるのだろうか。

長年、人事の現場を取材している筆者としては、同質的な体質が色濃く残る日本的組織の中で、会社が「1000万円新卒」をうまく活用できるか、はなはだ疑問である。

じつはNECなどのIT企業と、くら寿司では採用目的が異なる。順番に「1000万円新卒」がなじむかどうか、検証してみよう。

まず、NECなどのIT企業だ。この分野の企業の人事部が求めているのは、製品化に貢献するAIやデータサイエンスなどの先端のデジタル技術者だ。

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たしかに近年、「デジタル技術者」の市場価値は高まっている。だが、それにしても、なぜ1000万円という高額の報酬を払ってまで新卒を採用するのか。背景には、中途採用人材の枯渇という事情がある。

通常とは異なる賃金体系で高額報酬を提示する企業

すでに中途採用市場では大企業間で争奪戦が繰り広げられ30代前半で1500万~2000万円で転職している人も少なくない。大手人材紹介業の社長は「電機、自動車などの日本の大手企業でも優秀なデジタル技術者であれば最低でも1500万円、2000万円の年収を提示してきます。実際に35歳で3000万円の年収で日本の大手企業に転職した人もいます」と語る。

35歳で3000万円という額に驚く読者も多いに違いない。電機や自動車企業に勤務している人の中には「うちにはそんな社員はいないよ」と言うかもしれない。

だが、一般の社員には知られていないカラクリがある。前出の社長はこう語る。

「どの企業も自社の賃金体系の縛りがあり、同じ年代の社員よりはるかに突出した報酬を払うことはできないし、仮にそんなことをすれば必ず社員間で妬みや嫉みなどハレーションが起こります。それを避けるために一般的に2つの方法を使っています。

ひとつはAIやIT事業の別会社や事業グループをつくり、本体とは別の賃金体系で高い給与を支払う。似たような会社をシリコンバレーなど海外に設置している会社もあります。

もうひとつは正社員ではなく、契約社員として雇うやり方です。賃金体系に縛られないので高い報酬が出せます。転職する人は、最初は正社員を希望しますが、契約社員だと高い報酬がもらえるということで契約を選ぶ。若い人はその傾向が強いです。大手に入ったAIのエンジニアでは1年間2000万円、2年契約で入社した人もいます」

中途が多数を占める別会社であれば、本体の社員も知ることができない。また、契約であれば「社員ではないし、われわれと別格の人」という印象を持たれやすく、社員間の妬みも発生しにくいだろう。