戦後増え始めた子どもの症状は愛情不足が原因だった

「ADHD」のほか、「境界性パーソナリティ障害」「摂食障害」「子どもの気分障害」は、戦前には非常に稀なものだったのが、1960年代頃から徐々に増え始め、その後、爆発的な増加に至っている。

それは、単なる偶然の現象なのか。それとも、何か共通する要因がからんでいるのか。

実は、「境界性パーソナリティ障害」「摂食障害」「子どもの気分障害」「ADHD」は、不安定な愛着との関連が強いだけでなく、幼い頃に母親との間で不安定な愛着を示した子で、発症リスクが大きく高まることが裏付けられているものばかりである。

たとえば、摂食障害のケースで、典型的に認められる状況は、支配的で、過保護・過干渉な母親と、腰の引けた無関心な父親の間に育っているということだ。母親は子どものことを思っているつもりなのだが、実際には、自分の基準を子どもに押しつけている。共感的な関わりが苦手で、子どもに対して指導するか、非難するかという関わり方しかできないということが多い。子どもが境界性パーソナリティ障害の母親にも、同じ傾向がみられる。

境界性パーソナリティ障害や摂食障害、気分障害、依存症、解離性障害などについては、以前から、不安定な愛着の関与が指摘されてきた。

それに対して、ADHDは、遺伝要因の強い神経発達障害とされ、養育要因などまったく関係がないと、専門家たちも言い続けてきた。

ところが、遺伝子について調べ尽くされるにつれて、遺伝子の関与だけでは、とうてい説明がつかないということがはっきりし、近年では、遺伝要因と環境要因との相互作用による部分がかなり大きいと考えられるようになっている。中でも、養育環境の影響を受けることがわかってきたのだ。

現代人の「生きづらさ」には愛着の問題が関わっている

たとえば、施設に保護された子どもでは、ADHDと診断される子どもの割合が、通常の何倍にもなる。虐待を受けた子どもでは、ADHDの発症リスクが大幅に高まるのだ。

この事実に対しては、ADHDだから虐待を受けやすいのだとか、親もADHDの傾向を持っているので、虐待が生じやすいのだと説明され、虐待によってADHDになるわけではないと、専門家たちも言い続けてきた。

岡田尊司『死に至る病』(光文社新書)

だが、実際は違っていた。虐待は、脳の構造自体に異変を起こし、不注意や多動を含むさまざまな行動や精神の症状を生じ得るということが明白になっている。さらに、幼い頃に養子になることで養育者が交代しただけで、ADHDのリスクが数倍に高まるということもわかってきた。

ことに、虐待のケースにみられやすい「無秩序型」と呼ばれる非常に不安定な愛着を示す場合、その後、ADHD症状がみられるリスクを大幅に高めていた。しかも、親との愛着の安定性は、その子の神経機能障害の指標である認知機能よりも、ADHD症状を左右したのである。

それ以外にも、不安定な愛着がリスクファクターとなるものとして、依存症(薬物、ギャンブル、セックス、インターネットなど)、希死念慮、解離性障害、原因不明の身体疾患、慢性疼痛、虐待、DV、いじめ、離婚、非婚、セックスレスなどが挙げられる。

いずれも、今日の社会において問題となっていることばかりだ。

このように、現代人の生きづらさと苦悩の根底に、愛着の問題が関わっているということが明らかとなってきているのである。

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