1990年代から増え始めた子どもの躁うつ病

この少女のケースのように、子どものうつは、家庭環境、とりわけ両親の仲が影響しやすい。ただ、この論文の著者も述べているように、子どもがそのストレスを「うつ」という形で表現することは稀で、身体的な症状や、行動上の問題(たとえば万引きや抜毛といった行動)で表すことの方が多い。

実際、戦後の1950年代においても、子どものうつに関する論文はごくわずかであった。ところが、1960年代くらいから徐々に増え始め、その後は指数関数的な増加を認めている。

双極性障害(躁うつ病)は、成人、中でも壮年期に発症することが多く、子どもでは極めて稀か、存在しないとさえいわれていた。

1950年代には、子どもの双極性障害のケースが報告されているが、極めて稀で、一年間に一本も論文が出ていない年もあった。60年代、70年代と、症例報告が少数ながらされていたが、その頻度は依然少なく、1979年に、その道の専門家が「稀に存在することは否定しないが、私自身は、まだ一例も子どもの躁うつ病をみたことがない」と述べているほどであった。

しかし、その後、報告は徐々に増え始める。1990年代には、それほど稀なものではないと考えられるようになるとともに、ADHDと併存しやすいことに注目が集まるようになった。

2000年に出た論文では、子どもの躁うつ病が、大人の躁うつ病とは異なり、ADHDや攻撃的行動、非行、薬物乱用などを伴いやすく、また、虐待や不遇な環境との関連が強いことを指摘している。

子どものうつ病はある時期爆発的に増えた

そして、異常ともいえる増加が起きたのは、1990年代後半以降のことである。

1994年から1995年までと、2002年と2003年までの間に、外来で診療を受けた患者数を比べると、10代までの双極性障害は、約40倍にも増えていたのである。有病率にして、人口比で約1%に達した。

それに対して、20代以降の双極性障害の外来患者数は、約1.8倍に増えたに過ぎなかった(人口比で約1.7%)。

もちろん、認知が進んだということもあるだろうが、かつては存在しないとまでいわれ、わずか20年前には専門家さえも1例もみたことがないとされた子どもの双極性障害が、ごくありふれた疾患となったのだ。

1%の有病率というと、たいした頻度ではないと思われるかもしれないが、これは、双極性障害の中でもⅠ型と呼ばれる激しい躁状態を呈するタイプだけの頻度であり、大うつと軽躁を繰り返す双極性Ⅱ型などの、もう少しマイルドなタイプも加えた子どもの双極性障害の有病率は、実に7%にも達すると報告されている(2009年)。

このように、この数十年の間に、過去の常識を覆すような事態が次々と起きているのである。