東京・目黒区の船戸結愛ちゃん(当時5歳)が虐待され死亡した事件の裁判員裁判で、東京地裁は母親に懲役8年の実刑判決を言い渡した。なぜ子どもを虐待する親が後を絶たないのか。精神科医の岡田尊司氏は、「親からありのままの自分を愛されず、安定した愛着が育まれなかった結果、自分の子どもを愛せなくなる」という――。

※本稿は、岡田尊司『死に至る病』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
※本文中の事例は、具体的なケースをヒントに再構成したものであり、特定のケースとは無関係です。

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子どもを愛せず、煩わしく感じてしまう

愛着障害の人が抱えやすい最大の困難は、子育てがうまくいかないというよりも、そもそも子育てに対して意欲や熱意を持てないということである。親から適切な愛情や世話を受けずに育った愛着障害の人にとって、子どもの世話をすることは、喜びよりも苦痛ばかりが大きくなってしまう。そもそも子どもを愛せず、煩わしく感じてしまうことも少なくない。

四十代はじめの女性Nさんは、子どもや夫に対してキレてしまうことを繰り返していた。それは、子どもが不登校になった頃から激しくなっていたが、もともと潔癖なところがあり、子どもがNさんの言う通りにしなかったりすると、イライラして突き放すようなことを言ってしまっていた。

それでも、子どもが勉強を頑張って、成績も良かったうちは、まだ許せていた。ところが、学校を休みがちになり、進学どころの話ではなくなったことで、急にすべてが虚しくなり、子どもに対しても怒りが抑えられなくなったという。

思い返すと、Nさんは、子どもがもともと嫌いだったという。抱きついてきたり、オッパイを吸われたりするのも嫌で、つい拒否してしまったこともあった。子どもは母親の顔色をうかがい、機嫌をとってきたり、隙があれば甘えてこようとしたが、そんなときも、「煩わしいな、この子」としか思えなかった。