配偶者との関係が悪くなり子が邪魔になる

急増する愛着障害の原因の一つに、養育者の交代がある。養育者の交代は、親との死別や別居、離婚、再婚などに伴って起きやすい。

このうち、六〇年代以降、死亡率は低下傾向にあり、親との死別も減っていると考えられる。

一方、増加傾向にあるのが、言うまでもなく離婚である。アメリカの離婚率は、一九六〇年を境に急増し続け、一九八〇年以降は高止まりした状態となっている。一九六〇年代、七〇年代は、離婚が増えた時期でもあった。

あんなに可愛がっていた子が、急に可愛くなくなったり、その子を虐待するようになってしまうという場合、配偶者との関係悪化が影響していることも多い。その子の父親(母親)との関係が悪化したり、他に彼氏(彼女)ができたりすると、その子が邪魔者になったり、重荷になってしまうという状況もある。

離婚も含め、もちろんその子には何の非もない。親側の勝手な都合や事情に過ぎない。子どものことよりも、親自身の人生や自己実現を優先することが是とされる個人主義の時代においては、子どもの立場は流動的なものとなりやすい。

生まれてからの数時間で愛着が形成される

もう一つ、愛着を脅かす要因として疑われているのが、産科的な要因の関与である。中でも影響が大きいものとして、新生児室での管理が一般化したことである。

近年の研究で、安定した愛着を形成するための臨界期には二つあり、一つは生後六カ月から一年半であることが以前から知られていた。実はもう一つ愛着形成にとって敏感な時期があり、それは、生まれてから数時間なのである。その時間、できるだけ母親のそばに置いて過ごすことができると、その後の愛着が安定しやすいのである。

ところが、新生児は、分娩後、新生児室に移され、そこで過ごすことが一般的になった。産科での分娩が広がり始めたのは一九五〇年代からで、日本では、一九六〇年代に急速に定着した。

そうした対応がとられるようになったのは、新生児の状態を効率的、衛生的に管理するためであり、また、分娩で疲れた母親を休ませるためでもあった。ところが、それが余計なお節介となってしまった可能性があるのだ。

新生児室での管理や、母親と過ごす時間を制限するということを見直している産院もあるが、そうした動きが広がることを期待したい。せめて、生まれてすぐの時間は、母親と新生児が顔を合わせ、短時間でもスキンシップをとれるようにする配慮が必要だろう。