伊藤園は、(1)飲料化比率は市場規模と連動していること、(2)緑茶飲料の飲料化比率は他の茶系飲料と比べて非常に低いこと、したがって(3)緑茶飲料市場は今後まだまだ大きく成長する余地があることを、確信した。
さらに、緑茶飲料の成長性に対し明確な像を描くこともできるようになった。その根拠となるセオリーは次のようなものだ。当時、ウーロン茶の飲料化比率は50%前後、紅茶とコーヒーは約30%。いずれもほぼ安定していた。ウーロン茶とコーヒー・紅茶の間の飲料化比率の違いは、「止渇性」と「嗜好性」という性格の違いに起因していると考えた。喉が渇いたときや食事のときに飲まれることが多いウーロン茶飲料は、どちらかというと「止渇性」の強い飲料。それに対して、甘さや刺激が評価され、好き嫌いによって飲まれることが多い紅茶とコーヒーは、「嗜好性」の強い飲料。緑茶はといえば、止渇性飲料と嗜好性飲料の両方の性格を持っていて、緑茶の飲料化比率は30~50%の範囲に達するのではないかと、予測された。
飲料化比率の伸びに比例して緑茶飲料の市場規模も大きくなるという予想は、結果として大いに当たった。実際に、96年には飲料化比率がわずか4.4%で935億円だった緑茶飲料市場は、飲料化比率が10%に近づいた00年には2171億円の市場。20%に近づいた04年には4470億円の市場となっている。つまり、飲料化比率が10%高まることが、結果として2000億円の市場規模の伸びと対応しているのである。したがって、現状のようにコーヒーよりも緑茶が多く飲まれている状況が続き、緑茶の飲料比率が30~40%に達するときには、緑茶飲料市場は6000億~8000億円の規模に成長するという予測を持つことができる。
伊藤園では、「飲料化比率」のコンセプト&セオリーを持ったお陰で、長期的な緑茶飲料市場のビジョンに基づく新たな戦略の策定が可能になった。
その第一は、01年にスタートした茶産地育成事業だ。生産農家の育成のために国内外で大規模な茶産地育成事業に取り組んだ。伊藤園による茶産地育成事業では、スケールメリットを活かした大規模茶園経営と機械化による省力管理、生産・加工に対する伊藤園独自の生産技術の導入を行い、そして安定した単価での全量取引を行うという契約を結ぶことによって、生産者を支えた。この支援体制のおかげで、新規造成した茶園面積のうち実に9割をお茶づくりの経験のない農業法人が経営しているといわれる。