幸せな老後を過ごすにはどうすればいいのか。精神科医の和田秀樹さんは「会社に尽くしてきた真面目な人ほど、定年後に居場所を失い、孤独な老人になりやすい。50代のうちに会社以外の人間関係をつくってほしい」という――。(第1回)

※本稿は、和田秀樹『60歳からの人間関係整理術』(河出新書)の一部を再編集したものです。

引退した男性のシルエット
写真=iStock.com/Yaraslau Saulevich
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急に職場に来て「偉そうにするOB」の謎

学生時代、私は雑誌の編集部でライターをしていました。その頃、とても不思議に思っていた光景があります。

時折、すでに定年退職した先輩編集者たちが用もないのにやって来て、我が物顔で振る舞うのです。そして先輩が来たからには一緒に飯でも食いに行くかという話になって、皆で外に出かけます。当時は経費が使い放題だったので、つまり彼らは飯を奢らせるために来ていたわけです。

そんな姿を見ながら、私はなぜ会社を辞めて今は仕事もしていないような人に、これほど偉そうにされないといけないのだろうかと割り切れない思いを抱いていました。会社の経費とは言いながら、食事代を払うのはこちらです。それなのに、当たり前のように大きな顔をしています。こんな人につきあう必要はないではないか、と思っていたのです。

当時、学生だった私はただただ不思議に思っていたのですが、自分が彼らの年齢に近づいてきた今になって、彼らの感覚がだいぶわかるようになってきた気がします。

彼らは単に飯を奢られに来ていただけではありません。年をとって組織を離れ、他に居心地のいい場所がなくなってしまったのでしょう。自分の居場所もなくなり、相手にしてくれる人もいなくなって、何もできなくなってしまった自分が哀しくて、誰かに自分の価値を認めてもらいたかったのではないかと思います。

会社の人間関係は退職でプッツリ切れる

自分が仕事をしていた昔のように偉そうに振る舞うことができて、表面的にであっても丁重に接してくれる、そんな人間関係を求めて、わざわざ過去の仕事場を訪れていたのでしょう。そうやって偉そうに振る舞って先輩ヅラをしていた人たちは、定年後に新たな人間関係を作ることができなかった哀れな人たちだったのだろうと理解できるようになったのです。

けれど、そんな関係にも当然、限界があります。会社を辞めた時点での後輩や部下たちも、だんだん年をとっていきます。もし、退職時に新入社員を可愛がっていて、その部下がなついてなんでも聞いてくれるということがあれば長持ちするかもしれませんが、普通は一緒に食べたり飲んだりしているのはせいぜい10歳下くらいでしょう。しかも、皆だんだんと管理職になったり、異動になったりして、現場に知っている顔が少なくなっていきます。過去の人間関係にしがみつくのには限界があるのです。

もっとも、昔の雑誌編集部は防犯意識もゆるく、誰でも自由に入り込める環境だったのですが、セキュリティが厳しくなった今ではもはや会社内に入ることすらできないのが通常でしょう。こうなると、先輩ヅラをしようと思っても直接乗り込むことはできず、メールやチャットで連絡を取ることになるのかもしれません。となると、職場に押しかけて有無をいわせず人の輪に入り込むほどの効果は期待できません。会社の人間関係は、退職を機におおむね切れると考えた方がいいでしょう。