なるほど、動物愛護の観点が最も大きいようだが、実は乳製品も卵も含め、「畜産から生まれるものはすべてだめ」という考え方には、もう一つの大きな根拠があった。これがなければ、空前のヴィーガン・ブームは起きなかったかもしれない。
「温暖化を食い止めたいから食べない」
それはシーズンド・ヴィーガンで会った、これからヴィーガンになりたいという男性に「なぜヴィーガンになりたい?」という質問をぶつけた時だった。すぐさま返ってきた答えはこうだ。
「地球環境のためさ。自分が食べるものを選ぶことで、できるだけ温室効果ガスの排出を減らしたいんだ」
別の場所で聞いたヴィーガン歴1年という女性も「環境問題は深刻です。大量の温室効果ガスを出す畜産を減らすためには、私たちが肉をやめるところから始めなければ」と熱く語った。
つまり、彼らは肉や牛乳を生産する段階で排出され、地球温暖化の原因になっている温室効果ガスを、「肉や乳製品など畜産から生まれる食べ物を食べない」という方法で減らそうと考えているのだ。
若い彼らにとって、ヴィーガンになる第1の理由は地球環境を守ることだったのだ。
実は、この考え方を世に広めたのもやはりドキュメンタリー映画だった。
レオナルド・ディカプリオがプロデュースした『カウスピラシー』(2014)の主人公は、アル・ゴア元米副大統領主演の「不都合な真実」に傾倒した若いディレクター。温室効果ガスを減らすために子供の頃から節電や節水、車をやめて自転車に乗っていたにもかかわらず、それらの成果が、自分が食べている肉が育つために使われるエネルギーと温室効果ガスの排出量には遠く及ばないことを発見し、ショックを受けるところから始まっている。
電気自動車に乗るよりも効果的
多くの調査データも『カウスピラシー』の論理を裏付けている。
2018年のニューヨークタイムズの調べでは、世界の畜産から排出される温室効果ガスは全体の14.5~18%。化石燃料を使用した飛行機や車の移動で排出される13%をしのぎ、決して少ない数字ではない。
また同年『サイエンス』に掲載された、世界119カ国の畜産業者4万件を対象に行われた調査にも注目だ。
人間はエネルギーの18%、たんぱく質の37%を肉と乳製品から摂取しているという。ところが、それに比べて畜産業は世界の農地の83%を占め、農業全体から発生する二酸化炭素ガスの60%を排出している。
つまり、ヴィーガンの人にとって畜産とは、環境保護の視点でとても効率が悪い生産システムなのである。よって、肉の生産を減らすことは温室効果ガスの排出を減らす非常に有効な方法だというのだ。
オックスフォード大学の研究者が「環境へのインパクトを減らすためにヴィーガンになることは、飛行機に乗る回数を減らしたり、電気自動車に乗るよりも効果的」と指摘したコメントも見逃せない。