ミスが許されない宇宙空間のコミュニケーションで、心がけることはなにか。宇宙飛行士の山崎直子氏は「宇宙と地上で交信するときは、“Yes”と“No”ではなく“Affirmative”と“Negative”を使う」という。その理由をイーオンの三宅社長が聞いた――。(第2回)
三宅義和氏と山崎直子氏
撮影=原 貴彦
イーオン社長の三宅義和氏(左)と宇宙飛行士の山崎直子氏(右)

ネズミでも差が出る宇宙への環境対応

【三宅義和氏(イーオン社長)】宇宙空間ではどのようなお仕事をされたのでしょうか。

【山崎直子(宇宙飛行士)】主なミッションは国際宇宙ステーションの組み立てと補給でした。私自身はロボットアームを操作して、スペースシャトルで運んだイタリア製のレオナルドという大型バスぐらいの大きさの補給モジュールをつかみ、国際宇宙ステーションに取り付ける作業を行いました。その大仕事が終わったあとは、実験装置や補給品を所定の場所に組み入れていく引越し屋のような作業を行いながら、その合間を縫って実験も行っています。ぺんぺん草を育てたり、ネズミを15匹連れていって免疫の変化を調べたりしていました。

【三宅】かなり忙しいんですね。ネズミは宇宙に行っても元気なものですか?

【山崎】おもしろいことにネズミにも個性がありまして、ひたすらケージの網につかまって隅っこから動こうとしない個体がいるかと思えば、楽しそうに泳いでいる個体もいたりします。

コミュニケーションミスを防ぐための工夫

【三宅】ディスカバリーに搭乗されるまでにいろいろな訓練を受けていらっしゃるわけですが、英語の研修が非常によかったと伺っています。具体的にどのような指導だったのでしょうか。

【山崎】レニータ先生のことですね。彼女はアメリカのテキサスにいらっしゃる女性の先生で、長年、日本人宇宙飛行士とその家族の英語を見てくださっています。日本人に多い英語のミスや弱点を熟知されていて、とくに日本人は発音が苦手であることをよくわかっていらっしゃるので、研修ではフォニックス(英語の「音」と「文字」を結び付けるためのルール)を重視してくれました。

【三宅】発音は本当に日本人が苦手なことですからね。

【山崎】はい。しかも運がいいことに、当時、長女がアメリカの保育園に通っていて、イチからフォニックスを習っていたのです。娘がもらってくるプリントや教科書は私にとっても貴重な教材で、レニータ先生の授業と組み合わせながら使っていました。それでだいぶ発音は克服できたと思います。

【三宅】たしかにミッション中に言葉の取り違えが起きたら大変ですからね。ちなみに宇宙と地上で交信するときにコミュニケーションの齟齬(そご)が起きないためにはどんな訓練をするのですか?

【山崎】どうしても雑音が混入してしまうので、とにかくクリアに、できるだけ簡潔に話すということを徹底します。あとはYesならAffirmative、NoならNegative、数字の9ならNinerと言うなど、少し長めの単語で、なおかつ聞き間違えが起きづらい言葉を使います。航空機の管制官とパイロットのやりとりと同じルールです。もう一つ、これは最も大事なことですが、不明瞭なときはとにかく聞き直す。それに尽きます。

【三宅】地球での会話でも参考になりますね。