日本人はいまの2倍の量を話さないと認められない
【三宅】レニータ先生の研修はどれくらいの期間受けられたんですか?
【山崎】アメリカで訓練中ずっと受けていたので、8年弱ですね。その前に日本で訓練していたときはギャリー先生という別の先生がいらっしゃいました。ギャリー先生はどちらかというとコミュニケーションの心構えやプレゼンテーションの仕方などを教えてくださって、それもすごくためになりました。
【三宅】たとえば?
【山崎】「できない」と伝えるときにただ「I can’t do it.」ではなく「It is challenging. Let me consider.」と言うとか。伝えたいことは同じでも言い回しをポジティブに変えるだけで受け手の印象が変わってくるということですね。
【三宅】たしかに印象はまったく違いますね。
【山崎】あとよく言われたのは、異文化の中で日本人が働いていくうえでの心構えとして、日本人は言葉数が少なすぎるから意識的にもっとしゃべりなさいということです。日本人の感覚で「これくらい伝えれば大丈夫だろう」というボリューム感があったとすると、その2倍くらいがちょうどいいと。それくらいしゃべらないと、ものすごく静かで自分の意見を言わない人だと思われてしまう恐れがあると言われました。
【三宅】察しの文化は日本のいい面だと思うのですが、海外の人と一緒に仕事をする場合には通用しないということですね。
【山崎】はい。グローバルスタンダードでは通用しません。
意識すべきは、相手の国籍・文化よりも立場と性格
【三宅】国際宇宙ステーションのなかにいるときは、国籍や文化の違いといったものは意識されるものですか?
【山崎】意識するのは、それよりも立場の違いと個人の性格ですね。宇宙飛行士といっても、せっかちな人、のんびりした人、おしゃべりな人、もの静かな人と本当にさまざまです。当然意見が合わない人、反りが合わない人もいます。
【三宅】宇宙に行っても性格は変わらない。
【山崎】変わらないです。逆に極限状態の中で性格が強調されてしまうところもあるかもしれません。だからこそ、打ち上げのメンバーが決まると1年半ぐらいかけてみんなで一緒に訓練を受けるんです。すると仮に苦手な人がいたとしても、せめてうまい付き合い方はわかりますよね。「この人はこういうことを言うと怒るな」とか。そうやってお互いのことを深く理解してからミッションに挑むのが鉄則です。
【三宅】ミッション中に意見の衝突があったときは、どうやって克服していかれるのでしょう?
【山崎】全員が業務のことを真剣に考えているからこそ、大なり小なり意見がぶつかることはよくあります。でも意見と人格を切り分けるというのはもう鉄則なので、それで険悪なムードになるということはあまりないですね。
【三宅】日本人は自分の意見を否定されると人格を否定されたような気になって感情的になりやすいですからね。
【山崎】そうですよね。誰かに意見をフィードバックするときの作法としてよく言われたのが、「フィードバックはその場ですること」と「フィードバックをするときは人格とは切り離して具体的にすること」の2点で、何度も言われました。これはもう何度も行ってトレーニングするしかないですね。
【三宅】言いたいことは言うけれども、相手のこともしっかり聞く。そして感情的にならない。これが多様化社会におけるコミュニケーションのあり方で、日本人は英語を学ぶだけではなく、そうしたコミュニケーションに慣れていくことが重要なのでしょうね。
【山崎】本当にそう思います。その根底はやはりお互いのことをリスペクトすることだと思います。