宇宙船内部の意思決定スキーム

【三宅】でも必ずしも合意形成ができるとは限りませんよね。

【山崎】もちろん。ですから、宇宙船では指揮系統がかなりはっきりしています。意見が分裂したときの最終意思決定者はコマンダー(指揮官)だと決まっています。

【三宅】トップダウンとは異なるものですか?

イーオン社長の三宅義和氏
撮影=原 貴彦
イーオン社長の三宅義和氏

【山崎】上だけが考えて一方的に部下に指示するというトップダウンではありません。基本的にみんな意見を求められるけれども、時間にも制約があるときはコマンダーが最善と思う解で決めてしまうこともあるということです。あと、決断を下したあとも状況は刻一刻と変わっていきますから、「一度決めたことでも柔軟に変えていくものだ」という共通認識が全員のなかにあります。飛行機で行われているクルー・リソース・マネジメントという手法ですね。

だから最終意思決定者はコマンダーなのですが、「決してイエスマンになるな」と何度も教え込まれます。おかしいと思ったらきちんと言う。もちろん訓練を始めて間もないときは意見を聞かれてもわからないことがありますが、そういうときは正直に「わからない」と言う。これも徹底されます。

【三宅】たしかに判断がつかないのにYes、Noと言うのは無責任ですからね。

【山崎】はい。とはいえ、実際には宇宙船の中は一体感が生まれやすいです。性格はバラバラでもやはり同じ釜の飯を食べているわけですし、ひとつの宇宙船をみんなで動かして任務をやり遂げ、地球に帰るというわかりやすい共通目標があるからです。

むしろ温度差が出やすいのが宇宙側と地上側です。アメリカやロシア、日本だと筑波にコントロールセンターがあって、そこには何十人、何百人と人がいて、その人たちと入れ替わり立ち替わり交信をしながらミッションは進みます。そもそもミッション全体の責任者は地上にいるフライトディレクターで、私たちはあくまでもその方から指示を受ける「現場作業員」という位置づけです。

細かいフォローアップは夜に行う

【三宅】それは各コントロールセンターが自国の宇宙飛行士に指示を出すのですか?

【山崎】完全にミックスです。日本人の私もアメリカの仕事を任せられますし、逆に日本の実験をアメリカ人やロシア人に担当してもらうこともあるので。

【三宅】そういうものなんですね。忙しそうです。

【山崎】忙しいです。ですからどうしても現場の状況と地上からくる指示にズレを感じることがたまにあるのです。

【三宅】反論は許されるのですか。

【山崎】もちろんです。ただ、すべての会話は全部公開されますし、いろいろな作業が並立して走っているので、日中はひとつのことで地上側とゆっくり話す余裕があまりないのです。

【三宅】どうするんですか?

【山崎】夜に個別対応します。パブリックになっていないインターネット電話を使って地上側の担当者に電話をかけて、「日中にあったことだけど、実は誰々さんはいま体調が悪くて作業が遅れているけど、明日には回復しそうだから心配しないでいい」とか、細かいフォローアップをしていました。そうやってこまめにフォローしていかないとコミュニケーションの齟齬になりますから。