「もらさず」は間違いだった

儒学者、貝原益軒の『養生訓』の一節に「四〇以降、血気やうやく衰ふる故、精気をもらさずして、只しばしば交接すべし(巻第4の65)」という箇所があります。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/baona)

俗にいう「接してもらさず」で、そうすれば「血気がよく巡って体によい」と続くのですが、最新医学からすると全くの誤解です。

最新の科学的根拠による新常識では、精はもらせばもらすほど心臓にも血管にもよく、がんや生活習慣病を予防して寿命を延ばすというもの。逆に早くから性行為をやめた男性は、死亡リスクが上昇するという研究結果もあります。現代の養生訓を説くなら、さしずめ「しばしば交接し、大いにもらすべし」ですね。

男性不妊の治療現場では、出せば出すほど精子の運動率が向上し、活きがよくなることが知られています。体に悪いわけがありません。

ただし、女性のように明らかなサインはないものの、男性にも更年期があります。その気はあっても肝心の性機能が……ということも。

男性更年期の諸症状は、加齢に伴う男性ホルモン(テストステロン)の減少が原因です。60歳を過ぎて、何となく憂鬱な気分に苛まれる、やる気が出ないといった症状と、「朝立ち」しない、性欲がなくなったなど性機能の変化を感じたら、更年期を疑うといいでしょう。

治療はテストステロン補充療法(TRT)で、日本では医療機関(主に泌尿器科)での注射のほか、街の薬局で塗り薬(第1類医薬品)を購入することができます。

男性更年期には明確な診断基準はありませんが、不調が続くようなら1度はTRTを試す価値があります。私の経験では、劇的に諸症状が改善するケースが多い。年だからと諦めず、ぜひ医療の力を借りてください。

中高年の性機能を巡るもう1つの都市伝説は、バイアグラなどの勃起不全(ED)治療薬は心臓に悪いというもの。これこそ声を大にして「誤解だ」と言いたいですね。

もともとED治療薬は狭心症など血管が詰まる心臓の病気の薬として開発されました。その過程でEDに効くことがわかり、そちらにスイッチした経緯があります。

最新の研究では、ED治療薬を定期的に飲むと抗老化に働く抗酸化作用のほか、テストステロン産生が増加することもわかっています。

今や、低用量のED治療薬を「男性のアンチエイジング薬として習慣的に飲むべきではないか」という議論があるほどです。