▼入浴・睡眠編
スタンフォード流「黄金の90分」を手に入れる入眠法

質の高い睡眠で、認知症を予防

近年、「睡眠負債」の問題が注目されています。睡眠負債とは日々の睡眠不足の蓄積のことです。借金が利息で雪だるま式に増えるのと同じように、睡眠負債も知らぬ間にどんどん増えていきます。寝不足だから週末に寝だめすればいいと思うかもしれませんが、その程度では追いつきません。一時的に体は楽になっても、根本的な解決にはなりません。

また、睡眠負債の問題は自覚症状があまりないことで、そのまま放置しておくと、健康に深刻なダメージを与えます。高血圧や心疾患、糖尿病などの発症リスクが高まることがわかっています。さらに、睡眠負債は仕事の生産性低下や、大きな産業事故にもつながる懸念があります。

ところが、日本は世界トップクラスの短時間睡眠国家なのです。OECD(経済協力開発機構)の統計によると、日本人の1日の平均睡眠時間は442分(約7時間22分)で、米国の528分(8時間48分)などに比べ非常に短い(図1)。厚生労働省の調査では、睡眠6時間未満が4割を占めるとされています。

とはいえ現実問題として、忙しいビジネスパーソンが十分な睡眠時間を確保するのは容易ではありません。そこで私は時間ではなく、「睡眠の質」を最大限に高めることを提案しています。よく知られるように、睡眠にはノンレム睡眠(脳も体も眠っている状態)とレム睡眠(脳は起きていて体は眠っている状態)の2種類があり、この2つを繰り返しながら眠っています。

実際には、図2のように最初に深いノンレム睡眠があり、次に短いレム睡眠がきて、それが1周期で4~5回続きます。睡眠はどの部分も大事ですが、特に入眠直後の約90分の最初のノンレム睡眠が重要です、この睡眠をいかに深くするかが、睡眠全体の質を上げるのに大きなカギを握ります。ここで深く眠れると、その後の睡眠のリズムが整い、眠り全体の質が高まって、翌日のパフォーマンスも上がるようになります。

ですから私は、最初のノンレム睡眠のことを「黄金の90分」と呼んでいます。睡眠時間が短くても、最初の90分でしっかり深く眠れれば、最高の睡眠がとれます。逆にいうと、最初の90分が浅い眠りのままだと、何時間寝ても質の高い睡眠にはなりません。

実は、この黄金の90分の間に、1日に分泌されるグロース(成長)ホルモンのうち8割が分泌されます。その成長ホルモンには、細胞の増殖や新陳代謝を促進させる働きがあります。年齢とともに衰える筋肉や骨を強くするのに欠かせません。成長ホルモンは中高年のビジネスパーソンにとっても重要なホルモンなのです。しかし、眠りが浅いと分泌が促されないので要注意です。また深い眠りには、免疫力の増強や自律神経を整えて脳と体を休めたり、アルツハイマーなど認知症の引き金になるとされる脳の老廃物を除去する働きもあります。