重大な喪失にともなうつらさを、どう解消すればいいのか。悲嘆学を専門とする関西学院大学の坂口幸弘教授は「悲嘆の大きさや期間には個人差がある。悲しみは消えないかもしれないが、自分なりの向き合い方を探すしかない。落ち込みと前向きな気持ちの間を揺れ動くうちに、つらいだけの時間は少なくなっていく」という――。

※本稿は、坂口幸弘『喪失学 「ロス後」をどう生きるか?』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

悲しみやつらさは時が経てば薄れるのか

重大な喪失への向き合い方として、「時が過ぎるのを待った」という人も多いかもしれない。「時間が癒やしてくれる」となぐさめる周囲の人もいれば、自分にそう言い聞かせる人もいるだろう。時間は心を癒やす妙薬であり、悲しみやつらさは時が経てば薄らいでいくものであるという意味で、「日にち薬」という言葉もある。

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30代の女性は夫を病気で突然に亡くしてからしばらくは、夜眠れなかったり、気分が落ち込んで身の回りのことが手につかなかったりしたが、時間が経つにつれ徐々にこれまで通りの生活を取り戻していったという。2年以上が経った今では、「夫のことを思い出しても、それは悲しいことではなく、楽しい思い出になっている」と話していた。

実際には、重大な喪失にともなうつらさは、時間だけで解決できるようなものではない。むしろ時間が経つにつれ、つらさが増してくるように感じられることさえある。とはいえ、時間が経過していくなかで、気持ちはゆれ動きながら、少しずつ変化していくことも事実である。

「日にち薬と言われてすごく嫌だった」

過去に友人が夫を亡くしたときに、「日にち薬だから、頑張って」と励ましたことがあるという60代の女性は、夫を失ったみずからの体験を振り返り、次のように話す。

「自分が同じ立場になってみて、まわりの人から『日にち薬』だと言われて、すごく嫌だった。『日にち薬』なんて絶対にないと思った。でも、1年以上が経って、当時に比べるとずいぶん気持ちが落ち着いてきた。今になって、これが『日にち薬』なんだと思うようになった」

喪失の種類やおかれた状況などによって、悲嘆の大きさや期間の個人差が大きいため、「いつまでに立ち直らなければならない」というような基準を設けることは困難である。喪失による苦痛が軽減されるのに要する時間は人によって異なり、本人や周囲の人が考えるよりも短いこともあれば、ずっと長いこともある。

たとえば配偶者との死別に関する研究では、うつ症状を示す人の割合が、死別から4~7カ月後では42%であったのが、24カ月までに27%に低下し、30カ月後には18%にまで低下するとの報告がある(Stroebe & Stroebe, 1993; Futterman et al., 1990)。

このように時間の経過とともにうつ症状を示す人の割合はたしかに低くなるが、有配偶者の場合には10%であることを踏まえると、2年後や2年半後においてもその割合はまだまだ高いといえる。