命日や誕生日に落ち込む「記念日反応」
時間とともに少しずつ悲嘆が軽減していく過程において、治りかけた傷口からふたたび血がにじみ出すように、ときに急激な落ち込みを経験することもある。喪失体験を思い返しやすい日、たとえば死別の場合なら故人の命日や誕生日などが近づくと、すでに気持ちの整理がついていると思っていても、当時の記憶が蘇り、気分の落ち込みなどの症状や反応が再現されることがある。
これは「記念日反応」とよばれる。こうした気分の落ち込みと前向きな気持ちのあいだを、まるで波のようにゆれ動きながら、少しずつ落ち込みは軽減していく。失ったことのつらさは完全にはなくならないかもしれないが、つらいだけの時間は少なくなっていくであろう。
「喪失」への向き合い方には2種類ある
米国の死生学研究者であるケネス・ドカとテリー・マーティンは、著書『Grieving beyond gender』(Routledge, 2010)のなかで、喪失に対する向き合い方には、感情的な様式と行動的な様式があると論じている。
感情的な様式では、つらい感情を自発的に表現し、みずからの喪失体験を他の人と共有することを望むのに対して、行動的な様式なら、理知的に対処しようとし、感情よりも課題を議論することを望むという。二つの様式に優劣はなく、多くの人は両方の要素を併せ持っている。どちらか一方のみの様式の人は稀であり、両要素の比重の置き方が人によって異なる。
行動的な様式の傾向が強い人はみずからの感情を表に出すことは望まないが、悲しみや思慕などの感情を経験していないわけではない。しかし、感情をあまり表現せず、冷静に対応している行動的な様式の人に対して、感情的な様式の比重が大きい人は不信感をおぼえ、両者の関係に葛藤が生じることもある。
男らしさや女らしさといったジェンダーは、喪失に対する向き合い方に関係するとされ、感情的な様式は女性性、行動的な様式は男性性と結びつけられがちである。しかし、ジェンダーは影響要因の一つに過ぎず、実際はジェンダーに関係なく、男女ともにいずれの様式も認められる。ジェンダーだけでなくパーソナリティや文化、経験など他の要因との組み合わせによって、両様式のどちらに傾倒するかが決定される。