業績を一時落としてでも、残業削減に取り組む

ウェルビーイング経営の考え方に近い先進事例として、SCSKとフジクラを紹介します。

電線大手のフジクラは2018年に健康経営銘柄に選定された。(時事通信フォト=写真)

SCSKは2011年に住商情報システムとCSKが合併して誕生したIT企業です。当時、常態化していた長時間労働を問題視した初代社長が旗振り役となり、残業削減に取り組みます。ポイントは、労働時間を減らす際に従業員が直面するジレンマの解消です。

例えば、仕事を早く終わらせようとすると、短期的には成果が下がることもあります。これに対して経営トップは、業績を一時的に落としてでも、残業時間を削減するという明確な方針を示しました。その結果、現場の優先順位が明確になり、残業削減が進みました。

こうして、まず労働環境を改善したうえで取り組んだのが、従業員の健康増進活動「健康わくわくマイレージ制度」です。健康の維持・増進に資する5つの行動習慣(ウオーキング、朝食、休肝日、歯磨き、禁煙)および定期健康診断の結果をポイント化し、獲得した1年間のポイントに応じたインセンティブが賞与に反映されます。

経営陣が積極的にコミットし、健康増進活動に取り組むようラインの管理者に強く働きかけており、管理者自身もこうした活動に参加させることを自らの仕事として強く認識しています。その結果、当初から99%の従業員が参加し、取り組み3年目にはインセンティブ獲得者は75%に達しました。

SCSKの取り組みのポイントは、トップ主導で、まず従業員の負担を減らし、従業員が行動習慣に目を向ける余裕ができた段階でウェルビーイングの向上に取り組んだことです。

一方、従業員が活き活きと働くために、自発性を重視した活動を行っているのがフジクラです。電力・通信ケーブル、電子部品などの大手メーカーである同社は、14年に「健康経営宣言」を行い、従業員の健康を重要な経営資源と位置づけて多様な活動を展開しています。オフィスは、デスクから離れること、環境を変えること、体を動かすことにより、新しいコミュニケーションや人脈づくりができるような工夫がされています。一部の事業所内には遊歩道やアスレチック設備などを整備し、昼休みや帰宅前に体を動かしやすい環境づくりも進められています。

また、生産性向上の最大の阻害要因として身体活動量不足を課題に挙げ、その活動量を増やすための代表的な取り組みとして、3カ月間の歩数を競う「歩数イベント」を実施しています。個人だけでなくチーム戦として競うことで、フィジカル面の健康増進に加えてコミュニケーションの増加や職場の一体感の醸成にもつながり、メンタルヘルスの向上にも寄与しています。

事例から学ぶこととしては、企業の状況に応じて、自社の経営課題に、従業員のウェルビーイング向上がどのように貢献できるかを検討したうえで、多くの従業員が参加しやすい施策を行うことが大切だということです。

森永雄太(もりなが・ゆうた)
武蔵大学経済学部経営学科教授
神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。立教大学助教、武蔵大学経済学部准教授を経て、2018年4月より現職。専門は組織行動論、経営管理論。近著に『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』。
(構成=増田忠英 写真=時事通信フォト)
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