③従業員の業績向上…従業員の心身の健康状態が損なわれていると、本来のパフォーマンスが発揮されにくくなります。このような状態を「プレゼンティーイズム」と呼びます。また、従業員の健康状態は、仕事へのモチベーションにも影響を及ぼします。健康増進によるプレゼンティーイズムの解消やモチベーションの向上が、従業員の業績向上につながると考えられています。

④ブランド価値の向上…従業員の健康に配慮することは、企業としての社会的責任を果たすことであり、企業のブランド価値を高めることに寄与します。特に、人材確保が厳しくなっている中で、健康経営に取り組むことは労働市場での優位性につながります。

①と②は健康を損なうことによるマイナス効果を低減することへの期待、③と④は健康を増進することで得られるプラス効果を期待するものです。

病気の対策だけでなく、やりがいを重視する

健康経営は、どちらかというと、従業員の病気を未然に防ぐことよりも、不調に陥った従業員を早期に発見、治療し、復帰までを支援することに重点が置かれてきました。また「健康」という言葉には「病気ではない状態」というイメージがあります。そのため、「健康経営=病気ではない状態を目指す取り組み」と誤解されやすいところがあります。

しかし、本来、健康経営が目指しているのは、従業員が病気にならないだけでなく、仕事にやりがいを感じながら、活き活きと働いている状態です。その状態を表すのによりふさわしい言葉として「ウェルビーイング」を用いました。健康経営では、一般に安全衛生や健康増進に関する取り組みが中心ですが、ウェルビーイング経営では、従業員の次のような幅広い施策が対象になります。

①健康と安全に関する取り組み…健康リスクの評価、禁煙・運動・食事など健康な生活習慣を取り入れるためのサポートなどが挙げられます。

②ワークライフバランスの実現を後押しする取り組み…在宅勤務やフレックス制など従業員の柔軟な働き方を認めることは、従業員のストレスを低減すると同時に働き方の自律性を高めます。

③従業員巻き込み型の取り組み…組織が抱える問題に、従業員がチームを結成して解決に取り組むことで、組織の業績向上に加え、組織への愛着を感じたり、組織で働くことに対する肯定的な意識を引き出すことが期待できます。

④従業員の成長と育成に関わる取り組み…教育や育成により従業員の能力を高めていくことで、業務に対する負担感を軽減できます。また、成長を支援することにより、モチベーションの向上やストレスの低減が期待できます。

⑤従業員を承認するための取り組み…従業員の貢献を認め、報酬を与えたり表彰したりすることで、従業員が「自分が重要な存在であると認められている」と感じ、モチベーションや組織への愛着を高めることが期待できます。

これらの施策を行っている企業は多いと思いますが、それぞれ別の部署によって個別に実施されているケースが多いのではないでしょうか。各施策をウェルビーイング経営という観点から統合した取り組みにすることで、効果をより高めることができるでしょう。