8年ぶりに赤字転落した吉野家。長らく牛丼業界を牽引し、経営も安定していたが、何が起こっているのか。経営コンサルタントの鈴木貴博氏は「吉野家は『牛丼ひとすじ』で牛肉の部位にこだわるため、原材料のコスト増に対応できていない。事態は決算数値以上に深刻だ」という――。
2006年9月18日、米国産牛肉の輸入再開に先がけ、1日限定で復活した吉野家の牛丼(東京・有楽町)(写真=時事通信フォト)

「外食産業の優等生」から赤字に転落

牛丼大手の吉野家ホールディングスが1月10日に発表した2018年度第3四半期決算でマイナス5億6200万円の営業赤字を発表しました。前年度の同じ時点では25億9400万円の黒字でしたので、約32億円幅の減益です。

吉野家はなぜ赤字に転落したのでしょうか。通期ではこの状況はどうなるのでしょうか。他のライバル会社は大丈夫でしょうか。そしてどうすれば黒字基調に戻せるのでしょうか。

今回、吉野家が赤字に転落した要因は大きく3つ挙げられます。

(1)2018年10月から4カ月連続して既存店売上高が前年マイナスに転じた
(上期累計は104%だったものが下期5カ月分の累計が99.2%)
(2)原材料費の高騰で売上に占める売上原価の比率が0.9ポイント上昇した
(3)人件費が上昇した(売上に占める販売管理費の比率が1.3ポイント上昇した)

吉野家とスシローの意外な共通点

つまり売上が頭打ちになる中で、原材料費と人件費が上昇したので赤字に転落したというのが今回の構図です。ではライバルのすき家はどうなのでしょう。

すき家を経営するゼンショーの第3四半期決算は実は営業利益146億円の黒字です。しかも前年同期と比較して10億円近い増益。月次の店舗実績を見ても下期は既存店で売上高は3.8%のプラスと、経営成績は実に堅調です。

吉野家と同じフレームで比較してみると、

(1)既存店売上高は下期もプラス
(2)原材料費などの売上原価もむしろ対前年で0.4ポイント減少している
(3)人件費は上昇したとみえるが、売上に占める販売管理費の比率も0.3ポイントしか上昇していない

このような状況を比較して考えると牛丼業界が何かまずいのではなく、吉野家ホールディングスがうまく行っていないというように見えるのです。

確かに日本全体で今、人手不足に企業は苦しんでいて、従業員の確保が大きな課題になっています。最近では回転寿司大手のスシローが働き方改革の一環で2日間の全国一斉閉店を発表しました。従業員を確保するには時給を上げることやシフトを楽にするなど、企業努力をしていかなければお店がまわらなくなるリスクに直面しています。