牛丼に使う牛肉の部位にまでこだわる

その観点からあくまで類推ですが、すき家は店舗運営で引き締めを行って、それほど人件費が上昇しないように凌いでいる。一方の吉野家は働き方改革が必要な状況に積極的に対応しようとしたのでしょう。逆に大きな人件費コスト上昇に苦しんでいるという構図です。

さらに吉野家に限っては、「牛丼ひとすじ」のこだわりがあります。そのため吉野家の牛丼で使う牛肉をアメリカ産の特定の部位にすることを貫いています。この観点で見ても、吉野家は原材料のコスト増に対して本来的な対応力は強くはない。ですから牛丼三社の中で言えば、相対的にはいつも最初に経営難に直面する傾向があります。

状況を顧みると、コスト増が利益を圧迫しているのであれば、いつまでもデフレの優等生として並盛一杯380円で販売を続けるのは得策ではありません。状況に応じて少しずつメニュー価格を見直していくなどの対応が必要だということになります。

ただし、実はもうひとつ、吉野家ホールディングスの経営に関しては重要な経営課題が存在しています。

すき家を運営するゼンショーはなぜ強いか

吉野家ホールディングスも、ゼンショーもどちらも事業を多角化する「ポートフォリオ経営」が進み、経営に占める牛丼の比率が下がりつつあります。吉野家ホールディングスの場合、牛丼の吉野家の比率は全体の約半分。それ以外に讃岐うどんのはなまる、ステーキのどん、寿司の京樽といった別業態のグループ企業が脇を固めています。さらに吉野家とはなまるを中心にアジア出店も成功しているなど海外事業が堅調です。

この観点から見てみると、実は牛丼事業と讃岐うどん事業の利益を、ステーキと寿司が大きく足をひっぱっている。吉野家もはなまるも対前年では減益ながら、セグメント利益としては吉野家が約22億円、はなまるが約7億円の利益を稼ぎ出しているのです。ここにもうひとつの大きな経営課題が存在しています。

同じ構図ですき家を運営するゼンショーを眺めると、実は牛丼の比率は36%とさらに多角化が進んでいます。ファミレスのココスとジョリーパスタもゼンショーグループですが、ゼンショーの場合特に目をひくのが回転寿司業界のはま寿司が、スシロー、くら寿司に次いで業界3位へと拡大している点です。すでにはま寿司はゼンショーグループの中でファミレス部門を抜いて、牛丼に次ぐ第二の柱へと成長しているのです。ここが吉野家ホールディングスの業態ポートフォリオとの最大の違いです。