デザインで人を魅了、地域再生に貢献する

実用性のないテラダモケイや空気の器は、日々の暮らしの必需品ではない。けれども、必要なものしかない暮らしに豊かさを感じられるだろうか。人の暮らしに灯をともす楽しいモノ。それは実に尊い商品だ。

工場内に自社製の動物のモデルキットが。質感は実物に近い。

最近のヒット作は立川市との共同プロジェクト「立川市プレミアム婚姻届」。ポップで楽しいデザインの飾れる婚姻届を求め、遠方からもカップルたちがやってくる。年間300部の予定が約4000部売れるほど、注目を集めている。立川市でしか買えないため、地元・立川の地域再生にも貢献。この婚姻届を買いにきて、立川が気に入り、立川市民になったカップルたちもいるという。

大手企業から指名を受ける機会も増えた。「少しずつ」やってきた取り組みがブランド力を高めた結果だ。

「ブランド料として利幅の大きい額を提示できればいいんですが、僕はそうした駆け引きが苦手で(笑)。決して安くはありませんけれど、どーんと儲かるほどではないんです。今後の課題かもしれません」

ただし、今も名刺や昔からの付き合いの仕事が半分を占める。今後も下請け仕事をやめるつもりはない。

「これから比率は変わってくると思いますが、“本業”は弊社の核として大切にしていきます」

飾る。収める。残す。贈る。紙の特性を活かして、自在に目的に合わせられる同社のものづくりの革新は、斬新なアイデアと「少しずつ」のトライという、中小企業が倒れずにアップデートする方法をとったことによってもたらされた。突飛なようで堅実な山田社長のセンスとバランス感覚に、学ぶべき点は多い。

好きなことを少しずつやって受け入れられた
●本社所在地:東京都立川市
●従業員数:44名
●社長:山田明良(1962年生まれ。93年入社。2008年より現職)
●沿革:1963年創業。名刺と箱の加工技術を活かしたパッケージを手掛けてきた。2006年、デザイナーとの恊働プロジェクト「かみの工作所」を設立。以後、斬新な紙加工アート製品で知られるようになる。従業員約30人、3億円ほどだった年間売上高は現在、約4億円を計上している。
中沢孝夫
福山大学経済学部教授
1944年、群馬県生まれ。全逓中央本部勤務の後、立教大学法学部卒業。約1200社のメーカー経営者や技術者への聞き取り調査を実施。具体的なミクロな経済分野を得意とする。『世界を動かす地域産業の底力』『グローバル化と中小企業』『中小企業新時代』など、著書多数。
(構成=中沢明子 撮影=小原孝博)
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