そう考えたとき、Amazonでいかにシェアを取るかも確かに重要ですが、いくら売り上げを上げても、顧客の情報はAmazonの元にしか集まらず、彼らはそれを開示しない。しかも、宣伝費まで発生します。自分たちが自身で顧客のデータを集積しなければ、それをもとにイノベーションやリノベーションを起こすことが不可能になる、と私は考えたのです。

今でも「あのとき、浩三がいったのは正しかった」といわれます(笑)。結果として、Amazonは時価総額100兆円を超える大企業になり、「GAFA」に世界中の消費者の情報が集約している。それはすなわち、製造業、小売業のマーケティングに必要な情報を、独占されているということです。

翻っていえば、ネスレ日本で現在重視しているのは、顧客の情報をいかに集めるかということ。そして、その情報を得るためにも、メーカーだけをやっていてはいけない。製造も小売りもどちらも自社で手がける「製造小売り」としての会社の立場をはっきりさせようとしているのです。日本でユニクロやコンビニエンスストアが「一人勝ち」しているのは、いってしまえば上流から下流までの情報が集約される製造小売りだから。

ネスカフェ アンバサダーや、マチエコ便はまさに顧客の情報を直接集めるという狙いをもった事業です。直接オフィスにコーヒーを届ける。地域への定期お届け便を作り、顧客と直のやり取りをする。そうした直接のマーケティングを第一にしています。

ただ、マーケティングをして、顧客のニーズに応えた製品を生み出すことは必要ですが、それはただのリノベーション。味や品質、利便性を高めることは重要ですが、半面、簡単に価格競争に陥ってしまう。本当に必要なのは「顧客が気づいてもいない問題」「顧客が諦めていた問題」を発見し、解決する「イノベーション」なのです。リノベーションを進めなければならない一方で、21世紀の、GAFA時代の企業のチャレンジとは、突き詰めればイノベーションを達成できるか。顧客の抱える問題を考え抜き、発見するために、どんな「仕事」ができるかだといっても過言ではないでしょう。

フィリップ・コトラー
アメリカの経営学者
1931年生まれ。ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院インターナショナル・マーケティングのS・C・ジョンソン・アンド・サン・ディスティンギッシュト・プロフェッサー。「近代マーケティングの父」「マーケティングの神様」と称される。
 

高岡浩三
ネスレ日本代表取締役社長兼CEO
1960年生まれ。83年、ネスレ日本入社。2005年、ネスレコンフェクショナリー社長に就任。10年、新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築、同年11月から現職。高利益率を実現し、本社から「ジャパン・ミラクル」と称される。
 
(構成=伊藤達也 撮影=小倉和徳)
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