平成の「カフェ」を支えたのは女性

それにしても、スターバックスがたった10年であそこまで勢力を広げるとは想像できませんでした。2006年に、長年カフェ業界をリードしてきたドトールの売上高を、スタバが上回ったことは当時、業界で話題となりました。それもFC展開に頼らず直営一筋で運営してきたことはさらに驚きでした。

――現在は国内に1400店近くあります。なぜ、これほど拡大できたのでしょうか。

「コーヒーを飲む楽しさ」をファッショナブルに伝えたこと。日本の「おもてなし」文化に合ったことが大きいと思います。第1号店の記者会見でシュルツ氏がこう話したのが印象に残っています。「日本の喫茶文化の土壌は、我々をも受け止めてくれるだろう」。お店のスタッフは「いらっしゃいませ」ではなく、「こんにちは」と出迎えてくれます。それまでは国内のフードサービスで、こんなフレンドリーな声がけをするお店はありませんでした。同社が掲げる「サードプレイス(第3の場所)は、自宅でも職場や学校でもない場所という意味ですが、その居心地の良さをうまく演出しました。

昭和の喫茶店ブームは団塊の世代が支え、スターバックスを中心とする平成のカフェブームは団塊ジュニア、特に若い女性たちが支持したのです。

コンビニへの対抗手段は「店格」だ

――その後も「ブルーボトルコーヒー」が話題となる一方で、「コメダ珈琲店」に代表される「昭和型のフルサービス喫茶店」人気が現在に続いています。昭和型は、今後も続きますか?

続くでしょうね。広い空間でゆっくりしたい人は多いですし、レストランに比べれば単価の安いカフェは、年金生活者でも利用しやすい。特に、団塊の世代は昭和型の店舗にはノスタルジーを感じます。「星乃珈琲店」「ミヤマ珈琲」「高倉町珈琲」「むさしの森珈琲」など同業態も増えました。100円のコンビニコーヒーが進化し、イートイン店も増えた現在、カフェの主力商品であるコーヒーにどうこだわるか、各社各店の腕の見せどころになるでしょう。

――最後に、個人経営のカフェが、大手チェーンやコンビニに勝つための手法を教えて下さい。

私は「店格」という言葉で説明しています。人気のカフェは、飲食の味や店内の雰囲気だけではなく、店主の教養やインテリジェンス、スタッフの人間的魅力といった部分を含めた「アメニティ」(心地よさ)が持ち味です。次から次に多くのお客さんに応対するコンビニや、大手カフェチェーンでは、なかなか店格は醸成できません。人気店は、おいしいコーヒーや飲食への探求心もあり、最新情報を勉強して日々実践しています。どんな商売でも同じですが、進化を止めないことでしょう。

狹間寛(はざま・ひろし)
コーヒージャーナリスト。珈琲見聞録代表。珈琲店経営情報誌『珈琲と文化』編集担当。日本コーヒー文化学会常任理事。
1954年浜田市生まれ。1977年に株式会社帝国飲食料新聞社入社。1901(明治34)年創刊の食品・酒類業界専門紙でコーヒー担当記者として歩み、編集部長を歴任後、2015年に独立。現在は、カフェ情報や関連イベントの企画取材、編集業務を中心に活動する。
高井尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。
(写真=時事通信フォト)
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