こういったなかで疑問を抱く大学もでてきた。「インフォームド・コンセントやセカンドオピニオンが浸透して患者との信頼関係が重要視されるなかで果たして、ペーパーテストに強い=いい医者の卵と考えてよいものなのか」と当時医学部長だった東邦大学高松研学長は考え始める。そして、人間性を測るために面接試験を刷新した。

医師の適性を再検討し、2次試験の見直しに動く大学は珍しくない。東京大理三でも18年度入試(18年2月実施)から一時中断していた面接を復活。その理由を「将来、医療や医学研究に従事するのにふさわしい資質をもった受験者を学力試験の成績だけでなく、多面的・総合的に選考する必要があると考えたため」(入試課)とする。調査書・面接を含め総合的に判定し「学力試験の得点にかかわらず不合格となることがあります」と入学者選抜要項には明記されている。

実際に、学生時代トップの成績を収めてきたという証しやステータスを求めて医師になった人も存在する。そんな医師は、患者に対して「プライドの高さが態度にでて、落ち込んでいる患者の神経を逆なでするような発言をすることがある。そもそも患者の言葉を受け入れようという意識が低く、耳に入ってこないのだから、主訴は届かず、症状を見落とし、治療が遅れることがある」と、自らも外科医として日々患者と向き合う、恵佑会札幌病院の細川正夫会長は、多くの医師とのやりとりから問題を提起する。

人間性を見抜きたい、医学部の面接戦略

東邦大が新しい面接方法として6年前、他校に先駆け導入したのが、MMI(Multiple Mini Interview)だ。MMIは短い質問を、部屋を変えて複数することで、多面的に受験生をみるもの。17年度からは、東京慈恵会医科大や藤田医科大でも用いられている。東邦大では、受験生は4つのブースを回る。ブースごとに倫理観、問題解決能力など同校が標榜する「患者としっかりと向き合えるよき臨床医」に不可欠な素養を測る質問が用意され、1人の面接官が受験生に次のような同じ質問(実際にかつて問われた)をする。

「小児がんを患う子どもに『なぜあなたは健康なのか? 不公平だとは思わないか』と質問されたら、どう答えるか。3分以内に回答してください(一部改変)」

非常に難しい質問であるが、「みているのは即座にどう対応するか。かつて志望動機を尋ねていたときは、受験生が皆万全の準備をしてくるので、差がつけられなかった。MMIは事前準備がしにくく、回答時間も限られているので、自分をよくみせる余裕はない。受験生本来の人間性や能力を知ることができる」と渡邉善則医学部長は考えている。これに加え15分の集団討論を実施。「高齢化社会対策」「今後の医療に必要なこと」といったテーマを与え、受験生4人の討論を2人の面接官が見守る。最終的に1人が全員の考えをまとめて述べる。

一般的に集団討論では、(1)人の話を聞き、(2)そのうえで筋道を立てて自分の意見を言えるか、そして(3)全体のやりとりのなかで協調性を問う、といわれる。受験テクニック的には「リーダー役を買い、上手くまとめられると高得点につながる」ことになっているが、渡邉医学部長は「必ずしもリーダー役が評価されるわけではない。看護師、薬剤師など多職種と共に働く際に必要なのは、全体を把握し最も効率よい流れをつくる力」と判断基準を説明する。

教員たちが何度も集まり検討を重ねるというだけあって、どの問題も深く考えさせるものばかりだが、「正解はないし、正解を求めているわけでもない。短時間で学生のすべてをみることは無理だとしても、我が校が目指す“よき臨床医”になりうるかという基準に立つと首を傾げざるをえない回答は毎年確実にある」と渡邉医学部長は語る。

MMI、集団討論ともに段階評価がなされ、1次試験のテストの得点も合わせて最終合格者が決まる。「6人の面接官のうち複数が適性に疑問をもった場合、判定会議で慎重に検討する仕組みになっている」(渡邉医学部長)。今の6年生がMMIの1期生なので、導入でよりよき臨床医が育成できているかの検証はもう少し先になるが、「話していて共感できる学生が多い」のは1つの成果といえそうだ。ただ、「他大学との併願者もいて、他校に進学していった2次試験の高得点者も少なくない。導入効果は長期でみる必要がある」と高松学長は考えている。