イノベーションが必要なのは企業だけではない

人々の課題を捉え、イノベーションを起こさなくてはならないのは企業だけではありません。少子高齢化など、他国が経験したことのない先進的な課題に直面する日本政府も、これまでとはまったく違うやり方を考えなくてはならない局面に来ていると思います。

日本は戦後の高度経済成長を経て先進国の仲間入りをしたにもかかわらず、私が見るに、いまだに新興国だった時代のシステムを捨てきれていません。政府と役所、そして民間企業のトライアングルの形はまったく変わっておらず、このまま先進的な課題に対応しようとしても、おそらくうまくはいかないでしょう。

たとえば日本は世界に先駆けて本格的な少子高齢化に直面していますが、移民を受け入れずに人口を増やした国は過去にありませんから、誰もやったことのないことに挑戦しようとしているわけです。だからこそ、本質的な課題を掘り下げ、長期的な視点から必要な打ち手を考えるセンスメイキングの力が必要と考えています。

トップは10年続けなくては結果を出せない

長期的な課題に向き合うためには、時間も必要です。経営者に当てはめると、日本では過去の慣例を踏襲し、社長の任期は2期4年、長くても3期6年が一般的で、これでは大きな変革をできるはずはありません。

銀行でも頭取の任期は短く、今になって先送りしてきた問題がFinTechへの対応の遅れとして明らかになっています。10年前からFinTechの登場は予測されていたことであり、今頃になって慌ててリストラに踏み切っているようでは、遅きに失すると言わざるを得ません。日本人の中でもとくに優秀なエリートを集めたはずの銀行でさえこの状況ですから、トップの任期の短さは大きな国家的損失につながっていると思います。

私が思うに、トップは最低10年続けなくては結果を出せません。アメリカでは結果を出せなければ社長であっても解雇される一方、多くの場合10年以上同じ経営者がトップに座っています。私もネスレ日本の社長を10年続けるものとして取り組んでいますが、長期的な視点でイノベーションに取り組む姿勢こそが、日本にとって必要なことなのではないでしょうか。

イノベーションを起こせる人材の開発に必要な“顧客の諦めている、もしくは気づいていない問題発見能力”は、このセンスメイキングに通ずるものです。だからこそ高岡イノベーションスクール(TIS)により、次世代を担う若手管理職中心にイノベーションセミナーを開催しています。

高岡 浩三(たかおか・こうぞう)
ネスレ日本社長
1983年、神戸大学経営学部を卒業後、ネスレ日本入社。2005年、ネスレコンフェクショナリー社長に就任。10年、新しい「ネスカフェ」のビジネスモデルを構築。同年11月からネスレ日本社長兼CEO。
(構成=小林義崇 撮影=原貴彦)
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