【三浦】落合研究室ではそうかもしれないけど、皆はどうなのかな。「出社する必要は必ずしもありません。スカイプで十分」みたいな生活に移行するのかな。
【落合】すでに結構、移行しているような気がします。スカイプでつながっていたら、たとえばゼミの時間に美術館にいてもいいわけですよ。そこで見聞きする情報の複雑性は増すし。ただフィジカルにいたほうが得られるものが大きいときもあるから、さすがにゼミは皆来ますけど。ただ、遠隔ゼミのときは皆いる場所がバラバラで、それで結構楽しいこともある。この前、僕と複数の学生がオーストラリアにいて、誰かのタブレットで日本にいる学生とつないで街中でゼミをやりました。明らかに昔より自由になった気がしますね。
【三浦】クリエーティブ界隈はそうかもね。
【落合】まあ全部がそうなるわけじゃないから。でも1割、2割が変わってくるだけで全体のバランスが崩れる。2割変わると残りの8割も変わるじゃないですか。
【三浦】まあ、ある程度はね。
【落合】大学で教えていると、スカイプでやるほうがフェアだなって思うんですよ。
【三浦】認知バイアスが軽減される。
【落合】相手の性別とか年齢とか、関係なくなるから。物事をズバズバと互いに言い合えるのは、声だけの存在になっているからだと思っていて。会議しててもそう思う。相手が不利な条件を突きつけてくるときだけ、対面のコミュニケーションになっている気がするんですよ。だから僕は夕食の席で仕事の話はしない。会食で何か物事を決定しようとしてくる奴は絶対に裏があると思って、そういう仕事は絶対に受けない。
【三浦】そうなんだ(笑)。「落合さーん、よろしくお願いしますよ~」的な。
【落合】そういうのってあるじゃないですか。あと「1度ご挨拶に伺って」ってやつ。「挨拶に来なくていいよ。時間ないんだから、スカイプにしてくれよ」って思う。そのほうが議論も議事録も早いしね。
【三浦】まあ、そうなのよね。日本の仕事の多くは、正式な依頼のときに「No」と言われないための努力に割かれている気がする。いわゆる根回しね。
【落合】そうそう。わざわざ僕の時間を使ったうえで、何かしようとするプロセスが無駄なんですよ。とはいえ、対面で会ったら断れなくなるかもしれない。でも、対面では断れなくなるって考えたら、対面で会うことをやめますよね、人と。
でもIoT(身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながる世界)が発達して、「不利な交渉をしないためにはスカイプを使おう。オンライン会議を活用しよう」って記事を『プレジデント』が書いたら、多分、皆そうなると思いますよ。僕は意思決定のために高い解像感が必要なときは直接会うし、それ以外の事務的なミーティングのときはオンラインというふうに明確に使い分けているので。