プロティアン・キャリアは関係性を重視する
プロティアン・キャリアを築いていく上でのポイントとしてホール教授が述べていることは、(1)自分自身を客観的に評価し、自問し、内省し、そしてそれらを他者に支援してもらう方法を把握すること。その上で、(2)常に学び続け、自らの人生やキャリアの方向性を再構築できる能力を磨き続けることです。
プロティアン・キャリアで大切なことは「関係性」です。伝統的なキャリアでは一つの組織の中での自己を捉えてきました。一方の、プロティアン・キャリアでは、職場、職場外、趣味のコミュニティ、地域のコミュニティなどの「関係性」の集合として、「変幻する自己」を捉えていきます。
新しい環境に移ることは、それまでいた環境との決別を意味する訳ではありません。それまで培ってきた経験と共に、新しい環境に合わせて自らを変化させていくことなのです。そこでは、2つのコンピテンシーが要求されます。一つは、より複雑で、より自己内省的で、より自己学習的な「アイデンティティの成長」、もう一つは「適応力の強化」です。
個人がキャリア形成をする「場」としての組織
プロティアン・キャリアは、組織に属することを前提とした伝統的キャリアとは、次の3つの点に特徴がみられます。
まず、第一に、プロティアン・キャリアでは、個々人がさまざまなキャリアパス(=キャリアの経路)を取ることになります。大学を卒業し、就職した会社で働き続けるのではなく、転職する人。副業解禁制度を利用して、パラレルキャリアを歩む人。育児や介護で時短勤務や一時休職をする人。それぞれのライフステージにあわせてキャリアを柔軟に選択できるようになります。一つの組織の中に帰属し、組織内でキャリア形成するよりも、よりセルフカスタマイズしたキャリア選択が可能になるのです。
第二に、プロティアン・キャリアでは、個々人がさまざまな空間で働き、生活するようになります。仕事とそれ以外、仕事と家庭といった明確な境界線を設定するのではなく、子育てや介護にも時間を使い、時間のマネジメントをしながらキャリアを築いていくのです。テクノロジーの発展と深化により、在宅ワークや職場以外の場所からのリモートワークが可能になりました。通勤の頻度や時間も、働く個人のライフステージに適応させる形で、その都度、アップデートされるようになります。
そして、第三に、プロティアン・キャリアでは、個人を主たる対象として捉え、組織は個人が求める機会や場を提供するプラットフォームのように捉えます。組織に従属する個人ではなく、個人がキャリア形成する場として組織が存立するようになります。組織の中での経験を、次の組織にも活かしていく、また、今所属する組織での経験を組織間の壁を超えてオープンにしていくことを通じて、より自らがやりがいを感じて働くことができるのです。