停滞期を克服する「プロティアン・キャリア」

この長寿化時代におけるキャリア・プラトーを克服していくのに不可欠なのが、「プロティアン・キャリア」という考え方です。「プロティアン・キャリア」は、まだ聞き慣れない言葉だと思います。理論的な背景を説明すると、1990年以降のニューキャリア論の中で提起されたのが、バウンダリーレス・キャリアとプロティアン・キャリアです。どちらも一つの組織にとらわれず、自ら主体的にキャリア形成をしていく「キャリア自律」の概念として注目されています。

プロティアン・キャリアについて概説しましょう。まずプロティアンの語源は、ギリシア神話に出てくるプロテウスにあります。プロテウスは、自分の意思で自由に自分の姿を変えることができます。

この変幻するプロテウスの姿に、「自ら主体的に働いていくキャリア」という意味を込めて定義したのが、ボストン大学で教鞭をとるダグラス・ホール教授です。ホール教授が提唱するプロティアン・キャリアの定義をみることにしましょう。

「プロティアン・キャリアとは、組織の中よりもむしろ個人によって形成されるものであり、時代と共に個人の必要なものに見合うように変更されるものである」(ダグラス・ホール 1976『プロティアン・キャリア』(2015 p.22)

ただ、詳しく述べるならば、プロティアン・キャリアという概念は、1976年にすでに提唱されていました。しかし、自ら変化に対応しキャリアを選択していくという考え方は、その当時の社会状況とはマッチしていなかったのです。

ホール教授自身も20年後に、「1980年代は、組織内キャリアの全盛期であり、プロティアン・キャリア」(ホール 1996=2015 p.1)と呼べるものはなかったと振り返っています。

プロティアン・キャリアを築ける社会状況

それでは、わが国の働き方の現場で考えてみることにしましょう。私が今、プロティアン・キャリアを促進するものとして注目しているのが、政府が推進する「働き方改革」と、働く人々のキャリア観の変化です。

「働き方改革」の中では、特に、(1)長時間労働の是正、(2)副業・複業などの柔軟な働き方、(3)高齢者の就業促進が、組織内キャリアではなく主体的なキャリアの外発的な動機づけになります。言い方を変えるならば、「働き方改革」は、それぞれが主体的な働き方を模索するプロティアン・キャリアを希求するものであると言っても過言ではありません。

組織内での昇進に固執するだけではなく、自らがやりたいことを仕事にしていく働き方や、報酬よりも働くことの意味を大事にする近年のキャリア観の変化も、プロティアン・キャリアとシンクロしてきます。