薬品メーカーでは、強い反発

見た目は薬そっくりの直径8ミリメートルの丸い錠剤だが、中身はなんの薬理作用もない還元麦芽糖(甘味料)。偽物の薬、いわゆるプラセボと言われる偽薬だ。

課題は周知が進んでいないこと。

このプラセボを作り、販売しているのが滋賀県に会社を構えるプラセボ製薬の水口直樹代表(32歳)だ。

「偽薬よりも“プラセボ効果”という名前のほうが有名ですね。実際には効果のない偽薬でも、本物だと信じ込んで飲むことで本物の薬と同じ効能が出るというものです」

例えば「これは眠くなる薬です」と渡されて偽薬を飲めば、実際には眠くなる成分が入っていなくても眠気を感じる人が出てくるのだという。

臨床の現場では、プラセボ効果を狙うというよりも、通常の薬剤を飲むグループとプラセボを飲むグループに分け、薬剤自体の効果がどの程度あるのか測るために使われるのが一般的だ。しかし水口代表は、薬を飲んで安心した気分にさせる商品としてプラセボを製造・販売しているという。

「介護の現場では、認知症の高齢者が薬を飲んだことを忘れ、一日に何度も薬を飲もうとするといった問題が起こっています。職員が投薬を断るとそこで軋轢が生まれ、双方が疲弊してしまう。そこで何かできないかと思いついたのが、プラセボだったのです。プラセボならリスクなくそういった関係を解決できると思いました」

メトグリーン社の“サティスフェイク”など、臨床の現場向けに業務用のプラセボが製造・販売されることはあるが、誰でも手に取れる形でプラセボを販売するという試みはプラセボ製薬が国内初だという。しかしプラセボも万能ではない。外傷などには効果が薄く、効果的にプラセボが利用できるのは眠気や痛みという脳内の現象がメインだ。

プラセボ効果は長年、患者側が「薬を本物だと思い込んでいること」が条件だと思われてきたが、近年の研究では偽薬だと明示してからプラセボを飲んでも一定の効果があることがわかってきたという。