「がんに伴う倦怠感に悩む人が、プラセボであることを明示されながらプラセボを服用したところ、倦怠感が軽減したという報告があります。副作用の心配が少なく、安価なプラセボは医療の選択肢となりうる」

水口代表は「売り上げは年々上がっている」と語るが、まだまだ周知が足りず厳しい戦いを強いられている。

プラセボ製薬の主な顧客は老人ホームやデイサービス、自宅で介護を行う一般家庭など。しかし介護の現場では「患者をだましていいのだろうか」という倫理的な懸念があり導入に至らないケースや、店頭での販売もプラセボの特性上、扱いが難しく、思うようには進んでいないという。

しかし水口代表の元には心因性のあがり症や頻尿などの問題を抱えた子供の親からも注文があり、少しずつ活動の成果は見えてきている。

「現在、高齢者が多数の薬剤を同時に摂取するポリファーマシーを厚生労働省が問題視しており、多剤服用を抑えるアナウンスが出ています。そういった問題にも、一部を置換するような形でプラセボの活用が考えられます」

また、プラセボ効果によって起こるのはメリットだけではない。ノセボ効果という、本物の薬と同様に副作用も起こりうることも研究により判明している。扱い方によって、ただの錠剤が毒にもなりうる。

もともとは大手薬品メーカーに勤務していた水口代表。会社の製品会議でプラセボを提案したが、反応は芳しくなかった。「同年代の社員からは支持を得ていたのですが、上層部の支持が得られず社内では製品化ができず、独立に至りました」。偽物であるプラセボを、薬品メーカーが販売することに強い反発があったのだという。

「プラセボが医療の一環になりうる、ということはまだまだ周知が進んでおらず、厳しい状況です。業界全体のことを考えれば、医療メーカーが薬品名を印刷した、本物の薬のレプリカのようなプラセボを売り出すことも必要になるのでは、と思っています」

(撮影=橘 厚樹)
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